最近はアイドルやインフルエンサーになりたい若い子がとても多いようです。

 

昔からそんな子は学校に一定数いましたが、今は有名人になるハードルも低くなったことから、そう願う子はどんどん増えてきているように感じます。

 

SNS世代に育った彼らは、常にネット上にある膨大な数の”つくられた綺麗な現実”に触れ、競争と憧れに心躍らせています。SNSは人間の承認欲求を駆り立て、キラキラした場所へと誘導します。

 

そのキラキラの代名詞がアイドル、というのは間違いないでしょう。今のアイドルは昔と違ってどのグループも大人数、それだけではなく、これまで都会限定だったアイドル業にも”ご当地アイドル”なる分野が登場し、そのグループ数も膨大、確実にアイドルになれる確率は上がっています。

 

しかもアイドル=未熟さが売りという日本人独自の趣味嗜好が広く認知された効果もあり、特別かわいくなくても、歌が下手でも、ダンスが苦手でも、曲を作れなくても、トーク力がなくても、「成長を見守ってあげたい」と思わせる存在であれば、アイドルになれる時代。それなら私も・・!とチャレンジする子が増えたのも分かる気がします。

 

だってアイドルになって(売れれば)普通だったら絶対に届かないようなポジティブな言葉を浴びることができるし(その分ネガティブな言葉も受けるけれど)、好きな芸能人とも会えるし、普通よりは良い暮らしができるから!!きっとそんな思いもあるのだろうと思います。

 

 

さて、そんなアイドル志望の若い子に読んでほしいのが、今からご紹介する中森明夫さんの『アイドルになりたい!』です。
 

 

 

 

本書は今まさにアイドルになりたいと思っている若い子に向けて、アイドル評論家の中森明夫さんが書いた一冊になります。中森さんはアイドルとは日本の文化であり、これからも引き継いでいくべきものと言っています。

 

そもそもアイドルとは何を仕事とする人なのか。それについて中森さんは「好き」になってもらう仕事だと言います。多くの人に愛してもらうのがアイドル業。ちなみに「愛する」とは「信じる」ということでもあるそうです。この子を応援していて良かった!と思わせる存在になること、それがアイドルなんだそうです。

 

ここでちょっとファンの視点になって考えてみましょう。アイドルを応援している人は、実はそこで「見ず知らずの女の子を信じること」をやっています。大袈裟かもしれませんが、これは社会に出る前に「信じる練習」をしていることになるのだとか。もちろん、推し活をしている中で、たまに裏切られた!傷ついた!と思うことはあるかもしれません。しかし、推し活はあくまで「信じるための練習」なので、むしろ貴重な経験になります。

 

これは推し活だけではありません。スポーツも演劇も文学も、すべてがファンの「信じる力」によって支えられています。だからアイドルとは「信じさせる力」を身に付けることが何よりも大切なのです。

 

先ほどアイドルは未熟さが売りと言いましたが、いくら欠点をチャームポイントにしても「アホ」な子であっては生き残れません。アイドルとして売れる子、生き残る子には「腹黒さ」「計算高さ」が必要です。

 

腹黒いなんて言うと、響きがよくないかもしれませんが、中森さんは以下のように考えています。

 

 

 

腹黒になるー自分を魅力的に見せるためには、まず自分のことを知らなければならない。さらにはファンのこともよーく考えなきゃならない。一人一人のファンを研究して、いかに自分をアピールするか?グループアイドルならメンバーのことも考えなくちゃね。グループ内での力学、自分のポジション、ライバルは誰か?キャラがかぶってる娘は?そのなかでみんなを出し抜いて自分が目立つためには?(略)さらには運営や、事務所や、プロデューサーとの関係や、現在のアイドルシーンがどうなっているか?どうすれば、自分は輝けるか・・・徹底して考え抜かなきゃいけない。P157~158

 

 

 

まとめると、アイドルには繊細で、敏感で、リサーチ能力があって、想像力が豊かで、客観性に富み、判断力と決断力と構想力にすぐれ、演技力がばつぐんで、自分に必要なことが何かを常に理解している力が必要不可欠なんですね。さらには仕事選びに関しても損得で判断できる人間でなければならないと書かれています。

 

アイドルを途中で諦めてしまう子は、夢を追っている段階で情報収集力がないそうです。とにかく無計画のまま突っ走って、下手をこいてしまう。まず上記のことは当たり前として、社会に出れば不公平・不平等なことはたくさんある現実を知っていることが大事です。なぜならこれらは大人になれば誰もが知ることですが、アイドルを目指す子の場合、人よりも早く社会に出るわけなので、当然「現実」を知っているか知らないかで仕事への向き合い方も変わってくるからです。

 

まぁ個人的にはその不公平・不平等の内容を具体的に書いてくれた方が若い子にはもっと分かりやすかったのではないかなーと思いました。

 

ただ情報不足が人生を左右するのは、どの職業も一緒かもしれませんね。ちなみにアイドル離脱組の辞めた理由で多いのは、「生活費が払えない」と「人間関係」でした。

 

よくあるのが地方から上京してきたけれど、ろくな給料が出ずに家賃も物価も高い東京で生活できず、バイト三昧になってしまうパターン。有名人がたくさんいる事務所だからといって、ひとりひとりにマネージャーが付くわけではなく、むしろ所属タレントが多い分、社員の人材が不足している場合もあるそうで。確か前にYouTubeで未成年の子が現場に向かうのに事務所の大人の付添がなく、ショック受けていた動画を見たなぁ。そのうち親が出てきて事務所と揉めて・・って、給料も安くてどうのこうのって言ってたなぁ。

 

恐ろしいのは、そういう生活に困っている子に水商売や風俗営業の大人がよってくること。気づくと、いつの間にか望まない仕事をやっていたなんてことが本当に多いそうです。

 

もうひとつの辞め理由は人間関係。アイドルを目指すには友達がいない子の方がいいらしいです。なぜなら、有名になったとたん友達が豹変してしまうからです。「〇〇くんのサインをもらってきて!」と言われ断ったらネット上に悪口を書かれる、勝手に知らない友達ができ(他の友達経由で)連絡先まで知られている、返信しないとありもしない噂話を流される。こういったことで芸能界を去っていく子がたくさんいるそうです。

 

ちょっと想像するとわかりますが、芸能人の流出画像のほとんどは身近な人から漏れています。人間不信になってもおかしくありませんよね。これからアイドルを目指す方は、人間関係の管理は徹底したほうがいいでしょう。私の知っているアイドルは、学生時代に友達はいても、誰とも連絡先を交換したり、一緒に写真を撮ったりはしなかったそうです。特に写真は捏造させる危険性があるので気を付けていたとか。いや、凄い世界です。

 

と、以上が『アイドルになりたい!』の大まかなレビューになりますが、みなさんいかがでしたか?

 

アイドルって大変ですよね。それでもなりたいと思う方は、この本を参考にしてみてください。

 

騙されたり、裏切られたりは嫌だわ!という子は、学校の部活動に「アイドル部」をつくることがオススメだと中森さんは提案しています。部活動であれば売れないアイドルたちが悩んでいる諸々の悩みを一瞬で解決してくれるので(部費も出るし、顧問もいるし、無料の練習場やステージもあるし)、楽しく安全に活動できるのではないかと言っています。もしアイドル部が増えたら、全国の学校とコンサートができたり、演劇部やダンス部とコラボしたり、色々なアイディアも生まれそうですよね。なかなか面白そうな案だと思いました。

 

実をいうと私自身はアイドルにハマった経験がなく、未熟さを好む日本のアイドル崇拝をちょっと冷めた目で見ているところがあります。(最近ようやく消えましたが)未熟さを推すくせに、未成年にグラビアをさせるのは矛盾していないか?と思ったり、本当は歌もダンスも上手いグループにその実力がわからないような売り出し方をしたり。世間が求めることをしているので仕方がないと言えばそうなんですが、なんかどんどん過剰な未熟さになっているような気がして・・

 

中には最初から「できなくてもいいじゃん」という姿勢が透けて見える子もいて、パフォーマンス自体の質が低下していたり、プロ根性がない子もいる。中森さんも言っていましたが、わがままですぐ辞めたがる子もいるそうで、運営が未熟(そこもかい!)だとこういう子を引き留めてしまい、ますます「私って特別で何をしても許されるのね」と勘違いをさせてしまうのだとか。そうなるとグループの規律が乱れ、雰囲気も悪くなるので、この手の子はさっさと切ってしまうのがやり手の運営の方針だそうです。

 

おそらくこれからは前ほど未熟さ売りが通用しなくなってくる世の中になると思います。アイドル自身が大人たちのつくりあげたアイドル像を守るのに拒否反応を起こして、等身大の自分を見せようとしているようにも思えます。熱愛発覚の多さがそれを物語っているかと。実はダンス歴が長くて、普段聴く音楽のジャンルは全然違うのに、グループのイメージを守る為にキラキラ売りをしていて疲れちゃう子。こういうキャラは今の時代求められていないんだろうなぁと思いながら、必死で古いアイドルを演じている子。

 

かわいいアイドルもいいと思うけれど、かっこいいアイドルもいいと思う私。そしてどちらかというと、今の子はかっこいい寄りを求めているんじゃないかなぁ。幸せやキラキラを表現するのもいいけれど、若い子はどこか自分のモヤモヤした気持ちを代弁してくれるようなスターを求めているような気がしてなりません。

 

本来そういう役割はアーティストが担っていましたが、ご覧の通り今のJPOPはアイドルだらけなので、このジャンルもアイドルがやってくれないと本当に似たり寄ったりな楽曲とイメージのグループだけになってしまう。KPOPを目指せとは思わないけれど、欠点をチャームポイントにするだけなく、長所も前面に押し出すグループがあってもいいのではないか?と思ってしまいます。

 

歌もダンスもそこそこ上手くて、ビジュアルの個性も(縛りがなくて)それぞれで、ファンサも凄くて、メロディーラインのはっきりした曲をうたってくれるアイドル。そういうアーティストとアイドルの中間地点にあるような子たちが登場したら面白いのになぁと思います。

 

何の曲、誰の歌詞とは言わないけれど、今の子が聴いたら「きもっ」となるアイドルソングを作った方がいますよね・・。もう、あの路線は厳しいんじゃないかな。日本はいつも外圧からしか変われませんが、結構やばいなってことを未だに未成年にさせている大人がいるのも残念な事実。そういうところは変わってほしいな。せっかくそのグループのことが好きでも、変な仕事をしていたら自分までもがそれを認めている気持ちになってしまいますからね。もう少し応援していて恥ずかしくないアイドルというのも、考えていかなければならないと思います。

 

最後は話がズレてしまいましたが、アイドル志望の方、アイドルが好きな方は一度目を通してみてください。ちょっぴし厳しいことも書いてありますが、現実を知るのは人生のいい予習だと思うので、何事も勉強として、読んでみてください。

 

以上、『アイドルになりたい!』のレビューでした!

 

 

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