こちらは日本の男性アイドルの歴史をたどっていく一冊になります。日本の男性アイドル史といえば、そのままジャニーズの歴史を指すんじゃないかと思っていましたが、本書を読むとどうやらそうではない時代もあったようですね。

 

まず、大きく分けて日本の男性アイドルには、「不良」「王子様」という2つのタイプがあるそうです。そして日本の男性アイドル界は、この2つが競い合うことで発展してきたと分析されています。

 

面白いのは1970年代まで、王子様タイプを担ったのがいずれもジャニーズアイドルだったこと、そして不良タイプを担ったのがそれ以外のグループだったということです。しかし1970年代後半、たのきんトリオが学園ドラマ『3年B組金八先生』でやんちゃな生徒役を演じブレイクしたことをきっかけに、ジャニーズにも不良タイプのグループが生まれるようになりました。こうして不良タイプ、王子様タイプの双方をジャニーズ事務所が引き受けるようになった1980年代から、「男性アイドル=ジャニーズ」の土台が作られていったそうです。

 

また、ざっくりと不良タイプ、王子様タイプといっても、その2つは時代の流れと共に様々な変化を遂げています。わかりやすく説明すると、不良タイプとは、社会に対する反発・抵抗を売りにしたアイドル。王子様タイプとは、遠い憧れの存在を売りにしたアイドルのことです。

 

不良タイプは、GS⇒横浜銀蝿らツッパリアイドル⇒ロックバンド⇒ヒップホップダンスグループなど「不良性」と結びつく音楽と融合しながら、時代と共に変化していることがわかります。一方、王子様タイプは、ミステリアスな存在⇒親しみやすい存在へと変化しています。こうやってまとめると、王子様タイプはあまり変化していないのではないか?と思われそうですが、ここについてはもう少し詳しく説明させてください。

 

王子様タイプを具体的にいうと、SMAP登場前のジャニーズアイドルのことをいいます。その頃はまだ音楽番組がたくさんあり、人々は音楽番組で流れる新曲を聴いて、レコードを買うという流れででした。しかしバブルが崩壊し、社会のお祭りムードの停滞と共に数々の音楽番組が打ち切られるようになると、ドラマやCMの使用曲からヒット曲が生まれるルートが一般化するようになりました。

 

そんな中、王子様タイプを担っていたジャニーズアイドルは、いち早く時代の流れを読み、ドラマやバラエティに積極的に出演することで、自らの楽曲を売り込んでいくようになりました。この方法でSMAPが成功すると、続いてデビューしたTOKIOやV6、キンキキッズなども同じ流れに乗り、あっという間にジャニーズ一強時代へと突入していきます。こうして王子様タイプは、かつて「遠い憧れの存在」だったイメージから「親しみやすさ」を売りにした普通っぽいアイドルへと転身していったのです。

 

さらに「普通っぽさ」は、ファンとの距離を縮ませるだけでなく、アイドルそのものの定義すらも変えました。それまでのアイドルとは一過性のものであり、思春期を過ぎれば自然と卒業するものと考えられていました。しかし、新しいアイドルはより現実的な対象になったことで、大人の女性からも注目されるようになり、ずっと好きでいて構わない人生のパートナーへと変化していきます。

 

日本人はアイドルの未完成さを好み、その成長を見守ることを娯楽としていますが、2010年代くらいになると、もはやアイドルと一緒に成長していく自分を生きがいに推し活をする人が誕生しています。しかし、この「普通っぽさ」「親しみやすさ」も行き過ぎると、今度はジャニーズ本来の売りであった王子様感が薄れてしまいます。それがなぜ危機感に繋がるのかというと、現在では業界全体が「普通っぽさ」を売りにしている中で、個性を失うというのは今まで持っていた特別感を失うということでもあるからです。

 

実は不良タイプも「普通っぽさ」を求められる現在とは相性が悪く、苦戦している状況です。しかし、BTSなんかを見ると、SNSでの積極的な活動はファンとの「近さ」という点で今っぽさがありますが、メンバー全員が楽曲を自作し、社会的メッセージを発信するという点では「不良っぽさ」を残し、パフォーマンス志向が強く、完成度を追求している点においては「遠い存在」でもあります。もしかすると、これからの男性アイドルにはSNSやメディアをベースとした戦略+総合力がより求められるのかもしれませんね。

 

アイドル史の本をレビューしておきながら、私自身の青春時代はロック一色でした。男女共にアイドルにハマった経験が一度もなく、結構レアなタイプだったと思います。今でもロックバンドが一番好きなんですが、時代がソレじゃなくなってから長いので再ブームはないだろうなぁと残念なところ。本書でもメディアとロックの相性が悪く、バンドマンはどこかアイドル的な要素(衣装を可愛くする、謎の振り付けをする、歌謡曲っぽくアレンジする)を取り入れないと売れなかった経緯が書かれています。そのせいか途中で「これは俺が求めている音楽じゃねえ!」と、みんな解散しちゃったんですよね。(不良タイプはバラエティが苦手というのもあり、ジャニーズ一強が加速した)

 

そういった流れから見て、私はどちらかというと、不良タイプのアーティストが好みの人間だったのかなぁ?と考えたのですが、自分ではピンと来ませんねぇ。ジャニーズでいうと、KAT-TUNやスノストが不良系の系譜だと思うのですが、それよりは嵐とかキンプリ、なにわ男子などの王子様系と普通っぽさがブレンドしているグループの方が(ジャニオタではない私は)親しみがあります。あ、THEジャニーズだ!っていう安心感があるんですよ。これは無意識のうちに私がジャニーズ=王子様系と思っているからなんでしょうね。ただ、Snow Manが今までのジャニーズとちょっと違うのは何かわかるな。バラエティに出て、親しみやすさを売りにしている面もあるけれど、パフォーマンスにおいてはアーティストアイドルを目指そうとしているようにも見えます。

 

まぁ、そこら辺は詳しくないのでこれ以上は語りませんが、最近は性別・年齢問わずにアイドルが推されるようになっているし、アイドルの寿命が長くもなっています。男性アイドルと比べて、女性アイドルの寿命は短く、松田聖子みたいな人はなかなかいませんが、ここには女性アイドルに対する社会のジェンダーバイアスに大きな変化が起こらない限りは難しいだろうと言われています。

 

本書を読んで、ジャニー喜多川という人物が何だかんだで昭和~平成のアイドル史に大きく貢献し、メディアでのアイドルの使い方を生み出し、テレビブームを支えていたことがわかりました。しかし現在は、非ジャニーズアイドルの存在が大きくなりつつあり、ジャニーズ一強時代からアイドル自由競争化時代へと突入しています。色々とダークな噂のあるジャニーズですが、ジャニーさんが亡くなった今は、時代の先を読める新たな人物が必要となるでしょうね。おそらく今後のアイドル界は、どんなジャンルの仕事にせよ近しい存在でもありながら、その道の専門性があったり、プロフェッショナルな人材が求められるのではないでしょうか。

 

最後に、芸能界は闇に包まれた世界だとよく言われていますが、きらびやかな姿を見せてくれるアイドルの背景にも何かしらの葛藤や悩みがあるのだと思います。近年では、ハリウッドを始め、各方面から芸能界の悲惨な部分に対し、NOの声があげられていますが日本の芸能界、メディア業界も間違ったことにはNOの声があげられるようになってほしいと願っています。

 

 

以上、「ニッポン男性アイドル史」のレビューでした!