【闇ハランスメント】とは、精神・心が闇の状態にあることから生ずる、自分のストレスを一方的に相手に押しつけ、不快にさせる言動・行為のことを言います。

 

【闇ハラ家族】とは、闇を振りまく人。及びその集合体のことを言います。

 

【闇祓】とは、闇を振りまく人から逃れること。また、彼らの闇を祓うこと。及び、それを生業にする人々の総称を表します。

 

 

モラハラとは違うけれど、誰の近くにもひとりはいそうな名もなき存在。なんだかこの人と関わるようになってから心が疲れる。気を遣う。その状態に辻村深月さんは「闇ハラスメント」と名付けました。

 

本書は、そんな「闇ハラスメント」の被害を受けた人たちが各章ごとに登場するホラーミステリになります。

 

 

 

 

謎の転校生

 

澪は転校生の白石要からストーカー被害を受けています。要は転校初日から「今日、家に行ってもいい?」と尋ねてきたり、家の周りに出没したりと、相手との距離感を無視した行動を繰り返します。怖くなった澪は、憧れの先輩・神原に相談しますが、なんとそれをきっかけにふたりは付き合うようになります。

 

しかし、優しかったはずの神原先輩は、彼氏になったとたん豹変し、澪の欠点をネチネチついてくるようになります。それだけでなく、神原先輩と付き合ってからは、友人や部活の先輩たちとの人間関係も拗れ、毎日不安でしかたがなくなっていきます。次第に彼の行動はエスカレートしてき・・

 

一方、要は澪から嫌われていることも気にせず、一貫してストーカー行為を繰り返し、「神原から逃げろ」と警告してきます。実は、要には闇ハラスメントをする人間(闇ハラ家族)がわかり、闇ハラ家族のひとりである神原を澪から引き離そうとしていたのです。

 

要の助けもあり、神原と別れることに成功した澪ですが、翌日登校すると、友人の花果が神原と共に行方不明になっていることが判明します。(以下ネタバレになるため省略)

 

 

 

闇ハラ家族

 

神原先輩の正体は、闇ハラ家族・神原一家の長男でした。澪は要のおかげで無事でいられましたが、ここからは神原一家の父、母、次男から闇を振りまかれた人物たちが登場します。

 

サワタリ団地に住む女子アナ、食品会社に勤務する男性、そして小学生までが神原一家の被害に遭うんですね。闇を振りまくとは具体的にどんなことなのかと言われると、説明するのが難しいので、本書を読んでほしいという感想になってしまうのですが・・

 

そうだなぁ。たとえば自分のことを何でも肯定してくれて、「否定してくる人が間違っているんですよ!」なんて言ってくれる人がいたら、あなたはどう思いますか?やっぱり自分が正しくて、相手が悪いんだ!となりませんか?闇ハラ家族は、こういう手口を使って相手をとんでもない自意識過剰マンに育て、孤立させ、破滅させてきます。

 

厄介なのが、彼らの言ってくることは正しいような気がすること。嫌だなぁと思っても、何だか表立ってそれを表明してはいけない空気があります。一番怖かったのは、中途採用で食品会社に入ってきた五十代男性。彼は年下の上司からパワハラを受けていて周囲から気の毒がられているのですが、彼と関わる人はなぜか全員自己中心的な人間になっていくのです。ただ、本書を読むばわかります。この人と一緒にいると、勘違い人間になってしまう気持ちが・・・。そう、彼はパワハラ被害者と見せかけて、周囲を勘違い人間に仕立て、コントロールしているんですね。

 

一見いいひとそうなのに、実は~という人が一番危険。この手の人間はみなさんの周りにもいるのではないでしょうか。

 

 

 

感想

 

本書は闇ハラスメントをしてくる側のスキルが巧妙すぎて、いつ誰にどんな闇ハラをされているのか気づきません。この人が神原一家だと思ったら、こっちがそうなのか!というパターンが多々あり。これでは簡単に奴らに命を奪われてしまいますよね。あ、言い忘れていましたが、この闇ハラ家族たちは標的の心に入っては相手を殺してしまうのです。最近自分の周りに死人が多いなぁと思ったときには、既に神原一味が近くにいる合図なんですね。

 

闇ハラスメントは、超能力とは違うので、人生経験のある人なら、何となく「この人に深入りしてはいけない」という選別ができるものだと思っています。あ、この人の笑顔は嘘だとか、裏で揉め事の原因をつくっているなとか。ただ、なぜそんな人間が生まれるのか理由はわかりません。本書でも神原一家が存在する理由は、ただそこに存在しているからとしか言っていません。それほど、闇ハラスメントというのは人間にとって切り離せない感情なのでしょうね。

 

といっても、現実では当然闇を祓うことなど人間にはできません。しかし物語では、闇ハラ家族のお祓いに竹藪や犬が使われています。また、闇祓という生業をしている人は、特別な手法を使って彼らを退治できることになっています。

 

ご覧の通り、本書は現実にあるもの、ないものがミックスされている物語ですが、その絶妙なラインが小説として楽しめる一冊になっています。辻村先生、相変わらず女同士のドロドロを描くのがお上手です。オススメは二章の「隣人」なので、未読の方はチェックしてみてください。

 

 

闇ハラスメントを受けやすい人はとことん受けると思うので、みなさんもご注意を。

 

 

以上、『闇祓』のレビューででした!

 

 

 

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