今回ご紹介するのは、辻村深月さんの「青空と逃げる」です。

 

以前、辻村先生の著書『傲慢と善良』をレビューした際に、この作品は『青空と逃げる』という作品とリンク読みできるよーと書きました。

 

その時の記事はコチラ

 

まぁファンの方ならご存知の通り、辻村先生といえば別な本と別な本の物語が繋がっている「リンク読み」がお楽しみポイントのひとつなんですよね。

 

そんな情報を書いておきながら、片方しかレビューしないのは何だか変な感じもするので、今回はほんのちょっとだけですが『青空と逃げる』を簡単にご紹介したいと思います!

 

 

★★☆☆☆

★が少ないのは、あまり辻村先生っぽい作品ではなかったので。しかしこれはあくまでも私の主観です。

 

 

あらすじ

この物語は『傲慢と善良』の主人公が婚約者の前から姿を消し、宮城で被災地のボランティアをしていた時に出会った親子の逃亡劇になります。

 

『傲慢と善良』でもボランティアには結構わけアリな人が集まっている~というようなことが書かれているのですが、今回の主人公である母親(早苗)と息子(力)もそんな複雑な事情を抱えている一人なんですね。

 

舞台俳優をしている早苗の夫(拳)は、ある夜主演女優が運転する車に同席していた際、事故に遭ってしまい、世間から不倫を疑われ猛バッシングを受けることになります。

 

それだけでなく、事故により商売道具である顔を損傷してしまった女優が自殺してしまったことで、拳の立場は窮地に。そのすべての責任を負わされるかのようにマスコミや世間、相手の所属事務所から追われ、ある日突然、音信不通の行方不明になり・・・。

 

もちろん彼らの行く手は早苗や力のもとへも及び、母子は拳が起こした事件に巻き込まれたことで、逃亡を余儀なくされてしまいます。

 

 

みどころ

四万十、家島、別府、そして仙台。早苗と力は追手に見つかっては次々と他の地へ逃亡を繰り返しました。本書のみどころは、そんな彼らが避難した土地で出会った心優しい人たちです。

 

みんな母子が次の地へ逃亡する際に必ず「また来いよ!」「必ず会おう」と言ってくれるくらいあたたかいんですよ。どこの地にも短期間しかいないのに、驚くほどよくしてくれて、いい関係を結べているのが凄すぎて。

 

本書を読んでいる限りではあまり早苗と力は対人関係も得意そうには見えないどころか、わけアリ感がプンプンで、親しみを持って接してもらえる感じはしないのですが、周りの人は総じて気遣い上手で理解のある人ばかりなんです。

 

現実でもこんな世の中だったらいいよなぁと、ひねくれた私は思ってしまいましたね。まあ、みなさんも過去に何かしら辛い経験をされてきたから悩める人にやさしくできるってことなのかもしれませんが。また、この描写は誰にもSOSを求められずにいる母子が勇気を出して行動するまでの流布にも感じました。

 

なぜかというと、最後のほうになるにつれ、早苗も力も他力本願で甘えてばかりいてはダメだと、他人から親切にされればされるほど自覚していくんですよね。本書いちばんのポイントは、そこから母子が自立していく姿にとても感動するところかもしれません。

 

 

感想

ちょっと事件の当事者ではない母親と息子があそこまでして相手事務所の人間に追われる理由こそよくわかりませんでしたが、心理描写はさすが辻村先生!!な作品でした。

 

そして物語の中に散りばめられる伏線もラストには見事に回収しているのはさすがです。

 

さて、父親は本当に不倫の末に事故を起こしたのでしょうか。

 

息子は何か秘密を隠しているような・・・。

 

そんなところに注目していくと面白い一冊です。

 

小五の力くん、大人なんだか子どもなんだかよくわからない謎の子でした(笑)

 

ただ一つ、子どもの思考は親に影響されていますね。その逆もしかり。

 

力が強くなったとき、早苗も強くなっていて、早苗が行動したとき、力も行動していた。別府~仙台にかけて母子が急速に成長していくシーンがよかったです。

 

『傲慢と善良』でもそうだったんですが、被災地でのシーンが泣けちゃうんですよ。写真館で成人式の写真を撮るとき、椅子に亡くなったお父さんの眼鏡を置くお客さんが登場するシーンは涙なしでは読めません。自らが辛い経験をしても尚、他の傷ついた人たちを守ろうとしてくれる人の姿。そんなテーマが「青空と逃げる」に詰め込まれている気がしました。

 

きっとこの経験を通して、早苗も力も、今度は自分たちが困っている人たちを助けてあげたいと思うのでしょうね。

 

どんな場所にいても、どんな気持ちでいても、見上げる空だけは変わらない。誰もがみんな同じ空を見ている。それを励みに頑張ろう。

 

どこに逃げたって空だけは変わらずついてくる。一緒にいてくれる。見守っていてくれる。

 

当たり前のことですが、そんなことを改めて考えてしまう一冊でした。

 

そうそう、四万十編でエビの素揚げを食べるシーンがあるのですが、そこ、飯テロなんで気をつけてくださいね!私は我慢できなくて、スーパーでエビを買ってきてホントに食べましたから!!

 

できれば、本書を読む前にエビの素揚げを用意することをオススメします。

 

以上、「青空と逃げる」のレビューでした。