著者の関根さんが仕事で中国赴任時、骨董市で見つけた一枚の異質な写真。そこに写っていたのはいたのは日本の軍人と思われるひとりの人物でした。本書は関根さんがこの一枚を頼りに、古い写真に写る人物の遺族を捜す実話に基づいたドキュメンタリー小説になっています。
関根さんがその写真を見つけたのは、2014年の長春市。当時は750万人の人口に対し、日本人は駐在員と留学生を含めても200人程度しかいなかったそうです。実際、関根さん自身も街中で日本人と出くわすことはなく、写真を売っていた骨董市には自分くらいしか日本人は行っていなかったではないかと語っています。
そんな場所で見つけた一枚の写真。これはもう運命というか、導かれたというか、呼ばれた(?)と言ってもいいでしょう。あるはずのない場所にあった写真を、居るはずのない人が見つけたのですから、これはもう奇跡です。関根さんはさっそく、写真から読み取れる情報をすべて調べ上げ、その結果、写真の人物が朝鮮羅南の陸軍歩兵73連隊に所属していた青木善之助中尉であることをつきとめました。
さらに詳しい情報を求めるため関根さんは、写真を発見してから5日後にネットで情報収集を呼びかけます。すると大きな反響があり、調査協力を申し出てくれた人たちの支援も重なって、青木善之助さんの出生地や軍歴が判明します。それから2年後の2016年1月、ついに関根さんのブログに青木善之助さんの孫娘と名乗る青木かをるさんという方からコメントが届きます。そこにはかをるさんの父・宏司さんが善之助さんの長男であること、現在は広島県に住んでいること、そして宏司さんが写真を欲しがっていることなどが書かれていました。
するとここでも奇跡が訪れます。なんとこのタイミングで関根さんは中国から、本社がある広島へ異動することになったのです。こうして2度目の運命に導かれて帰国した関根さんは、同年の2月、青木宏司さんと娘さん、その息子さんと面会を果たしました。
残念ながら、この時点で既に善之助さんが家族と生き別れて戦死していること、宏司さん自身も朝鮮で姉以外の家族を亡くしたことがわかっています。宏司さんは朝鮮で生まれ、両親と姉と弟と本人の5人家族でした。しかし善之助さんが朝鮮の部隊から中国戦線に派遣されることになり、残された家族は、日本に帰国する道を選ばず朝鮮でその帰りを待つことにしたそうです。この判断が後に家族をバラバラにしてしまうとは知らずに・・・
本書はここから宏司さんによる壮絶な戦争体験の語りになっています。家族がどのようにして別れたのか、どのようにして亡くなっていったのか。そこはぜひ、直接「流転の一葉」を読んで知っていただけたらと思います。
戦争の話を読むのは辛いですが、絶対に私たちが忘れてはならない記憶でもあるので、定期的にこういった本には触れておきたいですよね。100ページもない短い記録なので、普段本を読まない方にもオススメできる一冊です。宏司さんは命懸けの作戦を経て帰国しましたが、誰にも見つけられず、忘れ去られたまま現地で生涯を閉じた人たちも多かったでしょう。それもひとりで。
戦争は今もここに書いてある姿と変わらぬまま、ウクライナで存在していると思うと、やるせない気持ちになりますね。最後に関根さんは、宏司さん亡き後も、生前宏司さんが宿題だと語っていたものを解消しようと走り続けます。たった一枚の写真からここまで行動できる関根さんの凄さと真っ直ぐさには頭が下がります。もしかしたら私たちの想像のつかないどこかで、まだ誰にも見つけられていない写真が今もひとりぼっちで彷徨っていると思うと、とてもやるせない気持ちになりました。
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