大学生時代に合気道部に所属していた仲良し4人組の”その後”を追った連作短編集。登場人物は森崎青子、日野原(旧:大橋)茅乃、安堂玄也、花田卓馬の男女4人。
青子は結婚までは順調な人生だったものの、出産後すぐに子供を亡くしてしまい、夫とも離婚していました。幻也は卒業後就職した会社でいじめに遭って退職してから、引きこもりに。茅乃は夫と子供には恵まれたものの、自身が乳がんに苦しんでおり・・。そして卓馬は妻が里帰り出産している間に新型コロナが大流行、その影響で長期家族が離れ離れになり、夫婦仲が危うくなっていました。
そんな4人はがんの治療を終えた茅乃からの誘いをきっかけに、数年ぶりに合気道をすることになります。最初は互いに当たり障りのない近況報告しかしていなかった4人でしたが、次第に悩みを打ち明けるようになり、改めて友人の大切さを実感していきます。
読んでいる時はずっと幸せってなんのことを言うのだろうなぁと思っていました。結婚、出産、子育て、仕事。人生の途中までは順調だったのに、思いがけないところで「普通」からはみ出してしまう4人。
娘の死から人生が変わってしまった青子は、娘がいるのにがんになってしまった茅乃を見て切なくなります。茅乃は命のタイムリミットに焦り、つい娘のためにと思って起こす言動すべてが厳しいものになってしまいます。娘を亡くしてしまったけれど、永遠に「かわいい我が子」のままで存在していられる青子と、娘を手にしても子育てで苦労し、互いに傷付き合い、おそらく娘の人生はいつか母親への憎しみを自覚することから始まるであろうことに怖がる茅乃。そのどちらにも不幸と幸せがあるように思えました。
一番社会的に成功し、かわいい妻とふたりの子供を持つ卓馬は、コロナ別居をきっかけに離婚します。それでも卓馬は自分の人生が結婚まで順調だったのは「たまたま」で、いつ普通からはみ出るかわからないと意外にもシビアに生きていた男でした。幻也は引きこもって社会人の肩書きを失ってから、どう人と関わっていけばいいのか不安になり、無の存在である自分に悩んでいました。しかし卓馬や家族の支えがあって、彼の周りから人が去ることはなく、それどころか新たな仲間が集まってきます。こうなると逆にひとりになった卓馬が気の毒になりますが、まだまだ人生何がどうなるかわからないんですよね。
しんどくなったらひとりではなく、4人で耐える。4人いれば誰かしらその人のピンチに気づけるし、辛くなったときに交代できる。
4人はこのおもいで繋がっていたからこそ、何かを喪失しても、くじけることなく再生できたのだろうなと思いました。
星から放たれた光が地球に届くには時間がかかる。自分たちが見ているのは過去に発された光であり、目に映る星すべて、この瞬間に存在しているとは限らないのだ。友人はいる。消えてもまだ、光を届けてくれている。そこにある星も、ない星も、光っているという意味では変わらない。P221
何かを喪失しても、それは本当の意味で喪失したとはいえない。そのままでいい、何も失ってなどいない。失ったということは、それだけのものを得ることができた証拠でもある。そうですよね?
改めて友達って大事なんだなぁと思いました。そして4人にはこんな深い関係をいつまでも続けられる友達がいて羨ましいなぁとも。
結局茅乃は4人の中で一番早く亡くなってしまうのですが、彼女は生前娘にこんな言葉を残していました。
「あなたは生涯を通じてけっして一人にはならない」
学校でも、家でも、大人になってからでも、困ったことがあったら助けてくれる大人が3人いるからと。
娘ちゃんにも茅乃にいたような素敵な友人たちとの出会いがこれから待っていますようにと願うラストでした。
わたしたちは人生のどこかで必ず何かを喪失しながら生きています。でもそのときに隣に誰かいるのか、ひとりぼっちではないのかによって、心強さはかなり違ってきますよね。
いま幸せな人も、不幸のど真ん中にいる人も、この先のことだけは平等にわからない。
わからないからこそ、何かあったときに寄り添い合う関係を日頃から築いていくことが大切だと思いました。
ただ、私にはそんな友達いないなぁ~。大人になるとバラバラになりますもの。大人になると、どうしても日常でかかわりのある人の方が仲の良かった人たちよりも、必要だと錯覚してしまうんですよね。ホントその瞬間を生きているって感じで。
大人になると友達の作り方を忘れるので、学生をしている子にはいま仲良しの子と離れ離れになっても、いつでも繋がれるくらい信頼し合っておいてね!とアドバイスさせてほしいです。
とても短い物語なので感想は少なめですが、気になる方はぜひ読んでみてください。
以上、「新しい星」のレビューでした!
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