今回ご紹介するのは、宇佐美まことさん「月の光の届く距離」です。

 

こちらは望まない妊娠をしてしまった女子高生がひとりで生きていこうと悩みもがく物語になります。

 

女子高生が妊娠?!どうせなるべくしてそうなったみたいな子なんでしょ。何を被害者ぶってるの?自業自得じゃない。

 

そう思ってこの本を手に取らない方もいらっしゃるかもしれませんが、ちょっとお待ちください。

 

この物語に登場する女子高生の美優はどこにでもいる普通の子でした。高校生になりしばらくして、告白してきてくれた同級生と付き合うという王道ルート。つまりは周りの友人たちがしていることと同じ流れで生きてきただけなのに、なぜか自分だけ妊娠してしまった。どうしてどうして、という焦り。等身大の高校生が怯えている姿が読者にも見えてくるようでとてもリアルなんです。

 

たとえるなら、隣の席の女の子とか、部活が同じ子とかが急に妊娠しちゃう感じです。もちろん美優の両親は大激怒。中絶手術が可能な時期はとっくに過ぎていたため、赤ん坊が生まれたら養子に出すこと、高校は休学して出産後必ず卒業するように言われます。

 

しかし美優は彼氏にも裏切られてしまったことや両親に恥と思われたことに対しての反発心から「ひとりで娘を育てていく」と家を飛び出してしまいます。

 

そうはいっても現実は厳しく、自分ひとりでも生きていくことができない女子高生がお腹に子どもを抱えたままどう生きていくのか。美優は夜の街に出入りするようになり、そこで自身の認識の甘さに後悔してしまいます。

 

結局美優は福祉のサポートを受け、とあるゲストハウスでお世話になります。そのゲストハウスには、様々な事情を抱えた親とは一緒に暮らせない子どもたちと、彼らの親代わりとなる明良と華南子という兄妹が住んでいました。

 

と、まあここまでがざっとしたあらすじ(一章のダイジェスト)なんですが、本書は長編というくくりでありながら、二章からはゲストハウスの住人にもスポットが当てられていき、短編のような読み方もできます。(ネタバレになるので各自のエピソードは封印)

 

このゲストハウスにいる人たちは、美優が自分は恵まれていると恥ずかしくなるほど、つらい過去を持っています。貧困、虐待、出生の秘密、もしかすると、美優があのまま夜の街を彷徨っていたら我が子に同じような人生を歩ませることになったかもしれません。けれども美優は意地を張ってひとりで生きようとしているだけで、家に帰れば娘のためを思って考えてくれる両親がいます。

 

一体なにが正しいのか。どうするのがお腹の子に最善なのか。美優はゲストハウスで生活する中で、いかに自分が未熟だったか、いかに周りの大人に支えられて生きてきたのかを痛感します。

 

 

<感想>

本書には実の親から愛されなかった子や親と一緒にいると生命維持が困難な子がたくさん登場します。心苦しいですが、はっきりいえば、両親とは一緒に暮らさない方が安全な子たちなんです。彼らは里親に育てられ、そこで家族を構成し、とても大切にされています。

 

そして美優も一時ではありますが、ゲストハウスで里親に支えてもらった人のひとりなんですね。血の繋がり以上に深い愛情を注いでもらっていました。

 

何を苦しいや辛い、不幸と決めるかは人それぞれですが、少なくともここに出て来た切ない過去を持つ人たちには、その不幸を連鎖してほしくないと思いました。連鎖させる可能性が高く、自信がないのなら、他人の手に委ねるというのもひとつ方法なのではないかと。単純ながら思いましたね。

 

私たちは太陽のような明るい光では、あなたを包み込んであげられない。だけど夜になって空に月が出て、あなたをそっと照らすことがあったなら、それはあなたへの私たち家族の愛だと思ってください。私たちは、いつも月の光の届く距離にいます。(冒頭より)

 

血のつながりが幸せをつくってくれるとは限りません。どこにいたら幸せになれるのかは人それぞれによって違ってくるのでしょうね。子どもたちには、どうか心の底から安心できる場所で育ってほしいというのが感想かな。

 

ちょうど内密出産や赤ちゃんポストなどのニュースを見た後に読んだので、それはそれで色々と考えさせられるものがありましたね。

 

育てられないなら生むなというレビューも当然ありましたし、私も同意する反面、経済的に育てられる家庭でも愛されていない子というのもいるわけで・・・難しい。こう考えると、やっぱり妊娠出産って生き物の本能うんぬんよりも、ひとりの人間への責任って感じが強いな。だって自分が幸せではないのに、その状態で誰かを幸せにするって簡単じゃありませんもの。まずは自分が幸せでなければいけない気がする。それでいて、この世に新たな命を芽吹かせることは、ハッピーよりも覚悟や責任が大きい。

 

そう思うと、やっぱり自分の感情と他人の感情ってどこかでつながっているんですよねー。自分を考えるとは、他人を考えることでもある。

 

というわけで、10代の子にもどんどん読んでほしい一冊でした。

 

 

 

 

 

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