自称性同一性障害と本物をどう見分けるか? | わたしの夢はどこに・・・

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私ってなに?本当にGIDなんだろうか?まだまだ彷徨っています。
その中で多くの方のブログを見させていただいて、いろいろなことを教えていただきました。
このブログは自らの心の整理と、一つの事例として他の方の参考になったらお返しになるかな
と思って開きました。

今日資料を整理していて、以前バックアップしていたこんな資料を見つけました

  これはある精神科の医師(私もお世話になりました)がGID診断にあって考えることで

  元々は科学評論社「精神科」第18巻第3号(2011年3月発行)の

  「特集II.自称○○障害と本物をどう見分けるか」の内の一つの記事として寄稿したもので

  後にAnno Job Log 2011/04/04 に掲載されたものを再掲したものです

  http://d.hatena.ne.jp/annojo/20110404#p1

もちろんこの意見に対して

  以前はこのブログのコメントやいろいろな方のブログで評価記事もあり

  ブログ記事はまだ残っているものもありますが

  コメントは今は読めなくなっていました

この意見に対していろいろと思うところもあるかとは思いますが

  一つの考え方として一度は目を通しておいても良いのかなとリブログさせていただきました

 

最近になって戸籍の変更を済ませたMTFの方が就職できないと言って?

  ”戸籍を戻したい”ということがあったようで

  このことはこのことで考えなくてはいけない部分と言うものもありますが

  わたしとしては、やはり自分のことを決めるのは

  何と言っても最終的には自分だと思います

そうした時にアドバイス/サジェッションをもらうのは構いませんが

  「わたしはなんだろう? わたしはどうしたらよいのでしょう?」的なスタンスでは

  先生も慎重にならざるを得ないし

  結果として本人の意思が固まるまで診断書などは出せないです

逆に言えば

  「わたしはこうなんだ! 今後こうして生きていきたいので、このように行動します」と

  明確な意思を持って

  それを伝えればそれほど診察の回数を重ねなくても診断は降りると思います

そんなことも考えながら次の記事を詠んでみてください

以下本文のまま

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2011-04-04

[]自称性同一性障害と本物をどう見分けるか Add Starhengsu

精神科,18(3):326-329,2011

http://www.kahyo.com/new-se.html

 

自称性同一性障害と本物をどう見分けるか

針間克己

 

はじめに

性同一性障害は、我が国では長らくタブー視され、医学的関与もほとんどなされていなかったが、1998年に埼玉医科大学性別適合手術(いわゆる性転換手術)が行われて以降、状況は大きく変化した。複数の大学病院で性同一性障害治療のためのジェンダー・クリニックが設立され、民間でも、精神科クリニックや形成外科などで治療が取り組まれるようになった。主要な医療機関を受診したものは、2007年末までに延べ7000人を超えている。1)また、2003年には、性同一性障害者の戸籍の変更を可能とする「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律も制定された。2)3)この法律により、戸籍変更をしたものは、2009年末までに、1711人である。さらには、性同一性障害であることを公表した政治家や芸能人の活躍もあり、世間的にも広く認知されるようになった。

このような状況の中、性同一性障害を主訴として受診するものは、増えているように感じられる。筆者は2008年4月にメンタルクリニックを開業したが、2010年末までに、2000人を超すものが性同一性障害を主訴に受診している。しかしながら、これら主訴としての「性同一性障害」、すなわち「自称性同一性障害」の受診者のすべてが、性同一性障害と診断されるものでもない。本稿では、これら「自称性同一性障害」と「本物」の鑑別について論じる。

 

1.「自称」と「本物」の性同一性障害の鑑別は困難である。

 本稿の趣旨と矛盾するようではあるが、まず記しておきたいのは、臨床的な現実として、「自称」と「本物」の性同一性障害の鑑別は困難である、ということである。それは以下のような理由からである。

(1) 性同一性障害は本質的に「自称」である

まず指摘すべきは、性同一性障害とは、ある意味において本質的にはそもそも「自称」のものであるという性質を有するということである。すなわち、性同一性障害とは、客観的事実としての性別が明らかに男性ないし女性であるにもかかわらず、主観的には、その性別とは反対に自己の性別を認識し、ジェンダー・アイデンティティを有する疾患なのである。この「主観」を「自称」という言葉に置き換えるならば、医者を含めた周囲の認識のいかんにかかわらず、自分は性同一性障害だと自称することこそ、性同一性障害の根幹的な特徴だと言えるかもしれないのである。

(2) 性同一性障害患者は治療を求める

通常の疾患を疑い、医師の診察を受ける者は、「あなたは病気ではありません。ですから治療の必要もありません」などといわれれば、多くの場合は安堵し通院もしなくなる。しかし、性同一性障害患者は、その疾患特徴として、反対の性別への身体になるための医学的治療を求める。そのため、「あなたは、ただの『自称性同一性障害者』であり、本物の性同一性障害ではありません。ですから、ホルモン治療や手術を受けられません」などと言われることは、望まない。そういった事態を避け、反対の性別に近づく身体治療を確実に受けられるように、典型的な性同一性障害患者像であるように自己を見せようとする場合がある。精神科医の問診に対しても、必ずしも事実は語らず、典型的な症状であるかのように述べることがある。そのため、精神科医が患者の実像を把握するのは必ずしも容易ではない。

(3) 性同一性障害の性別違和の程度や種類は多様である

性同一性障害における性別違和の程度はさまざまである。程度が軽いものであれば、性別違和はあったとしても、日常の生活は大きな支障はなく送れているものもいる。程度が重くなれば、性別違和により対人交流もほぼなくなり、ひきこもった生活を送っていたり、自殺念慮が著しく、自傷行為や自殺企図を繰り返す者もいる。

また、性別違和の種類も、性器の違和が著しいもの、体型への違和が著しいもの、社会的性役割への違和が著しいもの、容姿への違和が著しいものなど、その違和の種類はさまざまである。

こういったさまざまな性別違和の中で、どのような程度、種類のものが性同一性障害といえるのかは、診断基準の中で必ずしも明確にされているとは言い難いため、なにをもって「本物」と診断するか、その境界は不明瞭なのが実状である。

 

2.診断における基本原則

 上述したように、性同一性障害の「自称」と「本物」の鑑別は容易なことではないが、精神科医の役割、責務上、可能な限り妥当な診断を求められることもまた事実である。ここでは、診断する上で、筆者が日ごろの臨床で留意している基本原則のいくつかについて記す。

(1) 本人の使う「性同一性障害」の意味を確認する

初診患者に来院動機を聞くと第一声で、「自分は性同一性障害なので」と訴えるものも多い。このとき必ず、どうして性同一性障害だと思うのか、どういう意味で性同一性障害を用いているのかを確認する。ほぼ正確に理解しているものも多いが、同性愛者や、趣味で女装をするものなどが、「性同一性障害」という言葉を誤って使っている場合もある。

(2) 本人の言葉で、具体的な自分史を語ってもらう

 症状を聞くと、「性別に違和感があって」、「心の性別と体の性別が違うのです」などと訴えるものも多い。ただこういった訴えは、性同一性障害に関する書籍やインターネットのサイトなどにあふれかえっているきまり文句でもある。そのため、患者についての具体的な情報を必ずしも伝えるものでもない。患者の状態を把握し、正確な診断に近づくには、患者自身の体験や内面を自らの言葉で具体的に語ってもらう必要がある。そのためには、まず、自分史という幼少期から現在に至る性別に関する思い出の記録を書いてもらい、それを詳細に聞いていく。その聴取の過程を通じて、その人自身の性別違和の具体的な内容を把握していく。

(3)一定の期間にわたり、診察を行う

 確定診断のための診察はある程度の期間(およそ半年から1年)かけて行っていく。自分史の聴取だけであれば、長時間の診察を数回行えばできないこともない。しかし、性別違和が持続的にあることを確認するには、ある程度の期間の診察が必要になる。

 初診時には強い性別違和を訴えていても、時間の経過とともに違和が弱まっていく場合がある。また、家族や友人や職場等の人間関係の進展などの影響を受け、性別違和の強さが変化する場合もある。あるいは、ある程度の期間診察していくことで、それまでに隠されていた、妄想や幻聴といった精神病症状が明らかになる場合もある。

また、時間をかけて信頼関係が構築されていくことで、当初は隠していた心情や自己のセクシュアリティを治療者に打ち明けていくという場合も多い。

こういったことも考慮して、確定診断に至るには、ある程度の期間をかけ診察していくことが必要なのである。

 

3.鑑別すべきセクシュアリティや疾患

次に、性同一性障害を訴える者の中で、間違われることの多い、鑑別すべきセクシュアリティや疾患などのいくつかについて記す。

(1)同性愛

同性愛とは、自分と同じ性別の者に性的魅力を持つことである。たとえば、女性が女性に恋愛感情を持つ。すると「女性が好きだということは、自分の心は男性では」などと思い、医療機関を受診するものがいる。この場合、恋愛のことを抜きにすれば、自分自身の身体、性役割などには、違和感を強くは持っていない。そのことを確認することで、性同一性障害との違いは明確になる。しかしながら「内面化したホモフォビア」すなわち、自分自身が同性愛であることに嫌悪感を持っている場合には、「女性を好きな自分はレズビアンなのか。女同士で歩けばまわりの目が気になる。ホルモンで見た目が男性になれば、そういう目も気にならない」などと考え、自分を性同一性障害だと思いこもうとする者もいる。また、性同一性障害者は一定の要件を満たせば、戸籍の性別が変えられるため、「彼女と結婚したいので、男性になりたい」などと考える者もいる。こういったものたちは、同性愛であることは認めようとはなかなかしない。この場合、恋愛や結婚のことを抜きにして、自分ひとりの問題として、性別違和がどの程度あるのか、慎重に話し合っていく必要がある。

(2)異性装

「女装すると興奮してマスターベーションする」のように、性的興奮を目的として、女装するものや、コスプレのように楽しみ、気晴らしを目的として異性装をするものもいる。彼らの場合、自分自身の身体や、普段の性役割に関しては、強い違和感はない。ただ、「女装した時により一層女性らしくなりたいから」といった目的で、女性ホルモン投与を希望したりするものなどもいる。女性ホルモン剤はインターネットで個人輸入される場合が多いが、医療機関での処方や注射を受けるために、性同一性障害と称して受診することがある。彼らの場合、異性装をしない日常においての違和感の有無を具体的に聞いていく必要がある。日常における性別違和がさほど強くなければ、性同一性障害とは診断されない。

ただ、過去において、性的興奮を目的に異性装していたものも、その後。性別違和感が強まり、性別移行を望む場合もある。受診時に性別違和が持続的にあれば、過去の異性装の目的が性的興奮だったとしても、性同一性障害と診断される。

(3)性分化疾患

 性別違和を訴えるもの中には、性染色体異常や性ホルモン異常が隠されている場合もある。そのため、性同一性障害の確定診断のためには、精神医学的問診だけでなく、血液検査で染色体や性ホルモン値を測定すると共に、泌尿器や婦人科での身体的診断も必須である。

(4)統合失調症

 統合失調症の症状として性別違和を訴える者もいる。「お前は女だ、という声が聞こえるんです」といった幻聴や、「自分が実は女性だから、自分のまわりの男性が自分に対して性的興奮をする」といった妄想を訴える場合は、経験を積んだ精神科医であれば、診断は困難ではないであろう。しかし、最近では性同一性障害が広く知られてきたがゆえに、明らかな幻覚妄想を呈する前の、前駆期にみられる症状、すなわち漠然とした不安感や、周囲との違和感といった症状を、患者が性別の問題だと解釈し、性同一性障害として訴えてくる場合も見られる。こういった訴えの場合、直ちに性同一性障害か統合失調症かを鑑別していくのは容易なことではない。筆者は、性別違和の訴え方になにか奇妙な印象を受ける場合には、確定診断は留保し、長期的な経過を見ていくようにしている。

(5) 気分障害

 性同一性障害では、性別違和に伴い抑うつ気分を呈するものは多い。一方で、うつに伴い、性別違和が出現し、性同一性障害のごとき症状を呈するものもいる。鑑別のポイントとしては、性別違和の出現の時期である。性同一性障害であれば、人生の長きにわたり性別違和が持続的にあったはずである。そうではなく、これまで強い性別違和のなかったものが、急に性別違和を訴え始めた場合、むしろ、うつなどの他の疾患の一症状としての性別違和を疑うべきである。その場合、薬物療法などで、抑うつへの治療を行い、治療の経過とともに、性別違和がどう変化していくかを見ていくべきである。うつに伴う一症状としての性別違和であれば、うつの改善に伴い、性別違和も軽減していく。

(6) 発達障害

 広汎性発達障害をはじめとする発達障害も鑑別として留意すべきである。広汎性発達障害でみられる、アイデンティティ混乱のひとつとして、ジェンダー・アイデンティティも混乱することがある。また全般的な対人交流がうまくいかないことを、本人は「男性たちとはうまくやっていけない」などと性別違和としてとらえていることがある。また、こだわりの強さが、性器嫌悪や性転換願望としてあらわれることもある。こういった広汎性発達障害の症状のいくつかを、本人は性同一性障害の症状として捉えていることがある。

 

おわりに

性同一性障害の「自称」と「本物」の見分け方について論じた。精神科医による性同一性障害の診断は、ともすれば当事者から「門番」といわれ、ホルモン療法や手術といった当事者の望む身体治療への障害として、批判を受けることもある。しかしながら「自称性同一性障害」のものが、精神科医による適切な診断を受けないままに、性別適合手術や精巣摘出術など不可逆的治療を受け、その後に後悔しているケースも筆者は体験している。それゆえ、当事者のためにこそ、精神科医が性同一性障害を可能な限り正確に診断することが重要だと考える。

 

文献

1)針間克己:性同一性障害. 精神科臨床サービス, 第9巻4号,526-529p,2009

2)南野知惠子:[解説]性同一性障害者性別取扱特別法.日本加除出版,東京,2004

3)針間克己,大島俊之,野宮亜紀:性同一性障害と戸籍.緑風出版,東京,2007

 

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