「蛍の光」と「別れのワルツ」


まだ先の話ですが、3月になれば卒業式のシーズン。
卒業式といえば、昔は「蛍の光」が定番でしたが・・・
今では歌われていないようです。

「蛍の光」
4番までありますが、歌われるのは1番、2番で、
3番、4番は戦争に関する軍国的な内容でもあり、戦後には不適切としてあまり歌われません。

蛍の光、窓の雪、
書讀(ふみよ)む月日、重ねつゝ、
何時(いつ)しか年も、すぎの戸を、
開けてぞ今朝は、別れ行く


「蛍の光や月光の雪明りを窓から取り入れて書物を読む日々を送って・・・」
今の生活からは想像しにくい情景ですね。
中国の故事「蛍雪の功 (けいせつのこう)の内容に基づいています。

この曲のメロディは、施設や店舗などの閉館・閉店時にもよく流れていますね。
ただ・・・!

あの閉店時の曲は「蛍の光」ではないのです (?)。
閉店時のあの曲は、「蛍の光」とはよく似た別のワルツ曲で、「別れのワルツ」という楽曲名なのです。

▼「蛍の光」と「別れのワルツ」を聴き比べてみてください。

 



「蛍の光」と「別れのワルツ」がなぜ似ているかというと、どちらも同じ原曲をアレンジしたものだからなのです。

スコットランドの民謡「Auld Lang Syne (オールド・ラング・サイン)」が原曲です。
歌詞は、スコットランドの詩人である ロバート・バーンズ(Robert Burns) によるものです。
この曲は、ヨーロッパ及びアメリカ大陸へも普及していきました。
 

日本にも伝わり、「Auld Lang Syne」の曲にそのまま日本語の歌詞をつけてアレンジしたのが「蛍の光」です。1881年(明治14年)に誕生し、尋常小学校唱歌として採用され、全国の小学校に広がりました。
第二次世界大戦のとき、米英の音楽は禁止されていたのですが、
「蛍の光」はすでに日本化されているとして禁止対象から除外されたのです。
 

 

「Auld Land Syne」


メイヴ・マッキノン (Maeve Mackinnon)

ゲール語、スコットランド語、英語の歌におよぶレパートリーを持つ、最も偉大なゲール語歌手と言われています。
※ゲール語とはアイルランドやスコットランドで話されるケルト語を指し、アイルランド語とも呼ばれています。

映像の美しいこの動画を選びました。
 

 



「Auld Lang Syne (オールド・ラング・サイン)」とは
"Old long since" の意味で、意訳すると「古き良き日より」。すなわち

「懐かしいあの頃」となります。

旧友と再会し、思い出話をしつつ、酒を酌み交わすといった内容なんですね。


アメリカやイギリス、スコットランドなどの英語圏では、大晦日にその年一年を
懐かしむ歌として歌われます。
人々は輪になって手をつなぎ歌います。
中心に集まったり離れたり、手を交差させてつないだり、
家族や友人とも、知らない人とも
一体感が出て、心が通い合う瞬間です。

(手を交差させるのは、連帯感を示すASEAN式握手に似ていますね)

ところが、日本ではなぜか、別れの曲になりました。
「蛍の光」の歌詞は 稲垣千穎 (いながき ちかい) の作詞で、原曲の歌詞とは違った内容となりました。


ロッド・スチュワート (Rod Stewart)

スコットランド系の家庭に生まれたイギリスの国民的歌手です。

映像はスコットランドにあるスターリング城内でのライブの様子です。
 

 

手を交差させながらつなぐ場面が印象的ですね。

※ロッド・スチュワートの「セイリング」も好きな曲です ➩ こちらから

 

映画「哀愁」

 

 

1940年公開のアメリカの映画。好きな映画の一つです。
主演は ヴィヴィアン・リー と ロバート・テイラー
ヴィヴィアン・リーは前年製作の大ヒット映画「風と共に去りぬ」とは全く性格の違う役を演じていますが、ヴィヴィアン・リー も ロバート・テイラー も自身の出演作品の中で1番好きな映画は「哀愁」だと述べています。

(映画の内容についてはここでは触れません。泣けます。)
 

▼歌っているのは シセル (Sissel)
ノルウェー出身の女性歌手で、透明感溢れる歌声が魅力的です。
映画そのものとは直接関係ありません。
 

 


映画の中で、ロイ (ロバート・テイラー)と マイラ (ヴィヴィアン・リー) がレストランで、閉店前の最後の曲「別れのワルツ」でダンスをしながら口づけを交わします。

「別れのワルツ」は「Auld Lang Syne」をワルツ風にアレンジした楽曲なのです。
ダンスがクラブの閉店間際のシーンで踊られていたことから、後に閉店のBGMとして定着したようです。


▼「哀愁」のダンスシーン

 

 

 

 

再び、「蛍の光」と「別れのワルツ」の違い

 

「蛍の光」と「別れのワルツ」はメロディーはほぼ一緒なのに、何が違うのでしょうか。

それは、拍子が違うのです。
「蛍の光」は原曲と同じ4拍子なのに対して、「別れのワルツ」は3拍子なのです。映画で使用される際に、3拍子の曲としてアレンジされたのです。
 

映画「哀愁」は大ヒットし、レコード化されることになりました。
レコード化にする際に、採譜しアレンジを担当したのが 古関裕而 (こせき ゆうじ) です。
編曲された楽曲が「別れのワルツ」という曲名でレコード化されたのです。