コンドルは飛んでいく (El Cóndor Pasa)
 



前回に引き続き、サイモン&ガーファンクルの曲を取り上げてみたいと思います。

 

サイモン&ガーファンクル (Simon & Garfunkel)

「コンドルは飛んでいく(El Cóndor Pasa)」
お馴染みの曲ですね。1970年に発表されました。
まずはお聴きください。

 




「ペルーの音楽で有名な曲は何ですか?」と聞かれたら、きっと、この「コンドルは飛んでいく」をあげるでしょう。
アンデスのフォルクローレの代表作です。
(※フォルクローレとは、主に南米諸国の民族音楽のことです。)
フォルクローレに関心を持たない人でも、この曲のメロディは知っているほど定着しています。

サイモン&ガーファンクルが英語の歌詞をつけてカバーし、大ヒットとなりました。
ペルーのみならずアンデス地域を象徴する曲として人々に愛され、サイモン&ガーファンクル以降も、さまざまな音楽家たちによって世界各国で演奏され続けました。

 

<ペルーについて>
太陽の帝国インカはアンデス山脈を背景に独特の文明を築きました。
しかし、1533年、スペインのフランシスコ・ピサロの軍勢に滅ぼされます。
皇帝を「太陽の子」として崇めた栄光の跡は、今でもアンデス一帯に残っています。

「空中都市」として有名なマチュピチュの巨大な石造建築群をはじめとして、太陽の神殿、太陽の処女の館、サクサイアマンの城砦などです。
インカ帝国滅亡後、300年にわたってスペインの植民地となり、インディヘナ(先住民)は虐待と搾取にあえぎました。
アンデスの奥深い山岳地帯では、農民達は今でも段々畑を耕し、リャマやアルパカを飼い続けています。
1821年、ペルーはスペインから独立しました。



ダニエル・アロミア・ロブレス (Daniel Alomia Robles)
「コンドルは飛んでいく」は、1913年12月に発表されたサルスエラ(オペレッタの一種)という軽歌劇が始まりでした。
作曲はペルー出身のダニエル・アロミア・ロブレス (Daniel Alomia Robles)
脚本はフリオ・デ・ラ・パス (本名:フリオ・ボゥウィン, Julio Baudouin)。
歌詞はありませんでした。
  
内容は・・・
現実のペルーの社会状況を受けて作られたものでした。

1911年に実際に起きた深刻な鉱山事故と、その後の社会の反発に発想を得た作品でした。

アンデス先住民たちと、アメリカ人鉱山主との社会闘争がテーマとなっています。
当時のペルーは、19世紀初めにスペインの経済統制を嫌って独立したにも関わらず、再び英国や米国などによる経済支配が徐々に強化されていったという背景があります。

そして、もう一つ歴史的背景があります。
アンデスの山並みの上を飛ぶ勇壮なコンドルの姿に、スペイン人の攻略によって滅んでいったインカ帝国の運命を彷彿させるというものです。
インカ帝国の民話に基づく「コンドルカンキ」です。
コンドルカンキとは、1780年にスペインの植民地圧制に抗議して反乱を起こした勇者 トゥパック・アマル のスペイン名 ホセ・ガブリエル・コンドルカンキ を指しています。
コンドルカンキは、インカの王の末裔といわれ、残酷な植民地政策から逃れるべく独立をめざしてスペイン副王軍に抵抗しましたが、破れて1781年に39歳の若さで処刑されてしまいました。
しかし、被征服者の人々は、彼が神聖な鳥であるコンドルに生まれ変わり、アンデスの空を飛びながら今も見守り続けてくれていると信じているというものです。

 




曲は3部構成です。
1部……ヤラビーと呼ばれるアンデスの寒く乾いた山を連想させるもの悲しい旋律
2部……パサカジェと呼ばれる行進曲調のリズム
3部……ワイノと呼ばれる華やかな舞曲

サイモン&ガーファンクルがカバーしたのは、このうちの第1部の部分だけです。

1933年に先ほどの作曲者D.A.ロブレス自身の編曲したとされるピアノ譜があります。
演奏時間も4分半というちょうどよいサイズになっていました。

 




エドゥアルド・ファルー (Eduardo Falú)
アルゼンチンの生んだ名ギタリストです。

日本でも人気で、「コンドルは飛んでいく」を日本に紹介した人物とも言われています。

 




ロス・インカス (Los Incas)
アンデス音楽のバンドです。
1963年にカバーして発表しました。現在につながる雰囲気になってきました。

 

 

 

ロス・インカスは後に歌詞を付けています。
その内容はインカ帝国の滅亡を嘆くものでした。


ポール・サイモン (Paul Simon)
1965年、パリを訪問していたポールは、アルゼンチンのホルヘ・ミルチベルグ率いるロス・インカスのライブでこの曲を知ります。そして、そのメロデーに心を惹かれ、英語の歌詞をつけて発表します。
1970年、サイモン&ガーファンクルの最後のスタジオアルバム『明日に架ける橋』に収録され、シングルカットもされて一躍世界的に知られることとなりました。伴奏はロス・インカスです。

歌詞は、縛られた人生、変えられない状況を嘆きつつ、きっと自由になれるという内容を語っています。

歌詞には "コンドル" は全く出てきません。


コンドルは……
南米アンデスに広く生息し、寿命も平均で50年ほどと長く、先住民から力と不死の象徴として崇められてきました。
ただし、コンドルは体重が重いため、羽ばたいて飛ぶことができず、上昇気流を利用して滑空しているのです。
(飛べないのに「コンドルは飛んでいく」とは言葉遊びでしょうか…)




フェルナンド・リマ (Fernando Lima)
最後にフェルナンド・リマの「コンドルは飛んでいく」を紹介します。
アルゼンチン生まれ。美声が魅力です。
歌詞も好きなので付けておきます。こちらの歌詞には "コンドル" が登場します。

 



(訳)
アンデスに住むコンドルは目を覚ました
喜びに満ちた夜明けの光とともに
翼をゆっくりと広げて
青い水をたたえた川に舞い降りて水を飲む

彼の後ろに広がる大地には
緑が広がり 愛と平和が満ちている
彼の後ろに広がる大地には
太陽の恵みを受けた麦畑はいっせいに芽吹く

僕の上を飛んでゆくコンドルは言った
ついておいで 空高く昇ると見えるものがある
そこで僕はコンドルの背につかまり
もっともっと空高く飛んでいった

大地を見下ろすと
そこには僕が見た世界とは違う世界がある
国境なんて目に入らない
広い世界
見えたのはただそれだけ

コンドルは舞い下りた
よろこびに満ちた夜明けのアンデスに
彼が繰り返し歌うのが聞こえる
全ての兄弟達は平等に生まれついていると

彼の後ろに広がる草原には花が咲き
緑が広がり 愛と平和が満ちている
彼の後ろに広がる草原には花が咲き
太陽の恵みを受けた麦畑はいっせいに芽吹く