Andrew York - The Equations of Beauty "h" (1957 Hauser II ex. Bream)
『とんとむかしあったとさ その一』
昔々の事じゃった
お山の裾の随分はずれに 小兵衛と言う男が住んでいたそうな
小兵衛はとても働き者で 花や景色を眺めるのが好きじゃった
朝陽と共に起き出して 小鳥などの話にもふむふむそうかと耳を傾け
風の歌などよく歌い 決して欲張る事も無く
日々を感謝し暮らしておった
そんなある日の事 小兵衛は急な病に倒れ寝付く事が多くなった
それでも身体の楽な日は出来る仕事をして
縁側から花や入り陽などを眺め楽しんでおったそうな
広い原野を見渡していると 無性に山に入りたい気持ちになり
あぁ・・・そう言えばこの春はいつまでも寒くて薪をよく使ってしまった
山に入らねば薪も拾えん どうしたもんだろう・・・
あぁ・・・然しこの足では山まで行けん
困ったのう・・・どうしたもんだろう・・・
ある晩 小兵衛がうつらうつらしていると不思議な夢を見た
破れかけた古い障子の穴から 遠く森の入り口にある
大好きだった一本の木が薄らと見えて来た
おや 枯れかけているのか
いつからあんなに元気がないのだろう・・・
肥しが足りないのだろうか
それとも虫にでもやられたか・・・
あぁ・・・可哀想に・・・辛かろうなぁ・・・
小兵衛は 高い熱を出していた
夢と現を行ったり来たり 朝が来たのも気づかんじゃった
そんな時 土間の方で何やら小さな音がした
つづく
翠