「アンテナを張って、権力を振りかざしている人を見つけたら抗議しなきゃダメ」
「まったくも〜あなたは無批判なんだから!」
義母がお説教する時、人差し指を立てるのが癖です。
私の言うことが正しいのよ!良く聞きなさい!と言う意味です。
この指が出た時は、私は反抗せずに黙って聞いています。
1月の末に骨折した彼女、カートの助けで、やっと自由に歩けるようになったと思ったのに、緊急事態で自粛生活が始まりました。
外出は自由なので、高齢者の中には、自粛しながらも、野外でお隣さんと交流したりして、出来るだけ普通に暮らそうとする人もいます。
でも私の義母は違います。
愛犬と一緒にアパートで孤立しています。
そして、新聞、テレビから流れる、「ニュース」と言う名の「新型コロナ・サスペンス・シリーズ」を分析して、独自の「コンスピラシー・セオリー」つまり「陰謀論」を作り上げるのに夢中です。
自慢の陰謀論に、耳を傾けるのが、犬の散歩と同様に大切な、今の私の日課です。
彼女の陰謀論の悪玉は、毎日変わります。
首相だったり、国立血清学研究所の所長だったり、厚生大臣だったり、財務大臣だったり……。
陰謀論の犠牲者は、常に高齢者です。
特定の思考回路から出ているので、ニュースの話は毎日違っても、当然、結論は同じです。
彼女の立場で考えれば十分理解が出来ることなので、遠慮する時もありますが、反論することも多いです。
固定した思考回路を離れて、新しいパターンの可能性に誘うのは、特に高齢者が相手の場合、至難の技です。
そして、はじめに書いたようなお説教が始まります。
政治家が彼女と同じくらい賢かったら、事態はもっと早く収束されるのに……
……堂々巡りの毎日です。
でも、そんな義母にも、少しずつ再開の喜びが伝わっているようです。
陰謀論のターゲットは、国内から国外に変わりつつあり、最近では、テレビを消して、散歩に出かける心のゆとりも出てきました。車の運転も始めています。車は個室なので安心だそうです。
今の目標は、車を運転して農家に苺を買いに行くことです。
「苺は摘んでから1日経つと味が変わる。美味しい苺が食べたいなら、自分で作るか、農家から直接買わないとダメ」
これは、一般人は無農薬の無の字も知らなかった頃から無農薬に拘り、大きな家庭菜園を耕し、ご近所の人たちに配れるくらい大量の苺を栽培していた義母の十八番です。
耳にタコができるくらい聞きました。
そして、こればかりは正論です。
今日は母の日ですね。
義母のためにプレゼントを用意しました。
同じ不安を抱えながらも、以前と変わらず平穏な毎日を送る日本の母。
何も送らなくてごめんなさい。
2人の健康を祈っています。