バレエ『カルメン』と言うと、パッと思い浮かぶのは、ロラン・プチ版かと思いますが、今デン王立で上演されているのは、スペイン人の35歳の振付家Marcos Morau(マルコス・モラウ)版の新作で、世界初演の作品です。
マルコス・モラウは、 ダンサー歴のない珍しい振付家の一人です。
彼は、子供の時踊った経験は全くなく、15、6歳の頃、従姉妹が出た新体操の選手権を観戦して、体の動きと音楽のコーディネーションにとても刺激を受け、それがきっかけで、高校卒業後、振付家になろう!と決心したそうです。
あまり突然の思いつきに、頭がおかしくなったのでは?と言う、家族や友人の心配をよそに、ピザ屋で働きながらバレエ教室に通い、一年後、ヴァレンシアのConservatorio Superior de Danza のオーディションに挑んだところ、踊りの技術は疑問が残ったものの、その突拍子もないファンタジーを認められて合格。そして2年間学んだ後、振付を研究するためにニューヨークのMovement Researchに留学。4ヶ月後、スペインに帰国、バルセロナに移って、Institut del Teatre でダンス、オペラ、演劇を学び、首席で修士課程を卒業。博士号課程にも進んだけれど、途中でやめる。23歳で、仲間と一緒に、ダンス・カンパニー、La Veronal(ラ・ヴェロナール)を立ち上げる。そして今も、ラ・ヴェロナールのリーダーを務める。
なんか天才の匂いがする経歴ですね〜〜!
因みにラ・ヴェルナールと言う名前は、Marcos Morauが好きなイギリスの作家、Virginia Woolfが自殺を図った同じ名前の睡眠薬から来ているそうです。
その彼の『カルメン』は、「映画のセットで語られる(カルメンの)舞台裏」と言うサブタイトルが付いています。
前衛で、演劇的な要素(セリフがある)の濃い作品です。
新聞の批評は、新しい試みを評価するものの、生温い感じでした。
既に観に行った私の友人たち、
バレエよりもオペラが好きで、普通の『カルメン』を想像して観に行った一人は、第1幕だけ見て、ウンザリして帰ったそうです。
バレエ観劇歴40年以上、古典も好きだけど革新的な作品も大好きなもう一人は、最高に面白かった!と言っていました。
商業的には大成功で、チケットはとてもよく売れていました。
今日が最終日で、私もギリギリで観に行って来ました!
王立劇場が20代くらいの若い子で溢れていたのでビックリしました。いつもは50歳以上の人ばかりなのに、こんな事初めてです!
さて、舞台は、カルメンのバレエ映画を撮影している、と言う設定です。
大型スクリーンが上半分を占めていて、カメラマンが写した生の映像が常に映し出されます。
バレエの中にバレエ映画がある、と言う設定です。
舞台のダンサーはスパニッシュでカラフルな衣装を纏い、スクリーンには白黒で映ります。
舞台はフィクションの中のノンフィクション(撮影現場と言う現実)。
スクリーンはフィクションの中のフィクション(白黒で過去)。
観客席にダンサーが入ってきて、フィクションと本当の現実が繋がっている感があるのも味噌です。
ストーリーが進むにつれて、ダンサーがストーリーにのめり込み、フィクションとノンフィクションの境が曖昧になって来ます。
最後には、カルメンが殺されるシーンを撮ることを拒絶して、フィクションが本当の現実の世界に飛び出して来ます。そしてある鳥肌が立つ悲劇が起きる、、、、。
恐らく、この文章を読んでも???と言う感じでしょうね?
まだまだ、混乱する要素が沢山あるバレエでした。
出演者が全員メガネをかけていたり、、、。カルメンが複数いたり、、、。女性と男性の境も曖昧だったり、、、。映画と、演劇と、バレエの間の枠もなかったり、、、。
でも、何か自由で新しいものを観たぞ!感があり、面白いぞ!と思いました。
追記
王立劇場のリンクを貼り付けておきます。
トレーラーや写真とか、もしよかったら見てみてください。