明日は、娘の通う高校(ギムナシウム)で、3年生が卒業論文を提出する締め切り日です。
それはSRP課題という名の研究論文です。
これはデンマーク全国の全高校生の必修で、提出日は高校によって違いがありますが、書き上げる手順は全国共通、その結果は、その高校生の将来に大きな影響を及ぼします。
簡単に書くと、
1. 生徒は、課題のテーマになる科目を2つ選ぶ。
・選択できるのは、レベルA(A、B、C とあるうちの最高レベル)まで進んでいる自分の専門専攻科目から一つ、もう一つは少なくともレベルBまで進んでいる専攻科目から一つ。
2. 生徒は、選択した2科目が組み合わされた課題のテーマを指導教諭と話し合って決める。
3. 生徒は、自分の指導教諭が作成した大まかな課題研究の構想を受け取る。これは高校ごとに一斉に行われる。
4. 生徒は、自立的に考察し、構想を練り上げ、正確に2週間以内で研究論文を書き上げ提出する。
と言う手順です。
論文作成中は3年生の授業はありません。
私の長女は高校3年生です。
彼女が選んだ科目は、専門の数学と専攻科目から化学の2科目でした。
テーマは、医薬品が体に広まる速度を数学的に説明する。と言うものだそうです。
お兄ちゃんたちは、数学と物理だったので、文系の子たちのSRPについて、私は良く知りません。でも例えば、社会学と英語、音楽と宗教、と言う組み合わせで科目を選択して自由な構想で論文を書くようです。
数学と歴史、という風に理数系と文系を組み合わせる事も可能です。
主人は「デンマーク語」を選んで、100ページの論文を書いたそうです。でもそれは30年前の事です。今は、2科目を選択する事が条件で、どうしても1科目だけで書きたい時は、校長の特別許可が必要だそうです。
高校もどんどん改革が進んでいます。
だから、今年は上のような手順で書いた、と説明した方が無難かも知れません。
指導教諭が骨組みを作って、生徒が自分で考察して研究を進め論文を書き上る。書き方は、大学の学士論文とかと同じです。
そして、どの科目を選択しても、レジュメは英語で書きます。(これも凄い事です!)
以前もチラリと書きましたが、デンマークは小中学校まで超ゆとり教育ですが、高校(ギムナシウム)はとてもアカデミックです。
なんでゆとり教育なのか?についてはこちらにも少し書きました。もし良かったら後で読んで下さい。
うちの子たちは、皆、ちょっぴりオタク系なので、実はこうやって家にこもって研究に徹する事が苦ではありません。
でも、以前このSRP論文を書いている真っ最中の高校生を扱ったドキュメンタリーを見ましたが、生徒によっては酷くストレスの溜まる2週間のようです。
そしてそのストレスは、家族によっては、子どもだけでなく、親たちにも影響を及ぼします。
と言うのも、良い論文を書くには、もちろん、生徒自身の努力、指導教諭の腕が第一に物を言います。が、親が会社を休んで手伝う、と言うケースもあるようです。その為、この論文は「親の課題」と言う別名もあるくらいです。お金を出して専門知識のある人に手伝わせる親もいるようです。勿論どちらも反則です。
高校生が全員、手伝う事が出来る親や知人を持っている訳ではありませんので、生徒の社会環境が論文に影響する事があり、問題視されています。
では、何で皆んなそんなに一所懸命なのでしょう?
デンマークの大学は、全て国立です。
日本のように大学入学試験はありません。
が、厳しい高校卒業試験があり、その結果と高校3年間に専攻した全ての科目の最終得点の平均点で、入学できる大学、学科が決まります。そして、その平均点は変える事が出来ません。だからその子に一生付きまとう、と書いても大袈裟でないくらいの意味があります。
具体的に書くと、大学入学を希望する時、願書を国に送ります。人気のある大学、学部になればなるほど高い平均点が必要です。例えば、国際ビジネス、医学、心理学……。
卒業論文は、卒業試験の一つです。
しかも卒論についた得点は2倍されます。
それで、いい点が取りたくて皆んな必死なんです!
もちろん、卒論を書くのはそのためだけではありません。
大学へ進んだ時に必要な自立した学術研究の能力が試される場です。
卒論を書きながら考察した事で自分の進む道を決める事もあります。
長女も色んなことをよく考えて本当に頑張った2週間でした。頭の中の整理ができたらしく、さっぱりした表情をしています。
長女の高校の論文締め切りは、正確に明日の朝8時半です。朝早起きしてPCを開けて送るのは嫌なので、娘は今日中に送ってしまうそうです。