浜松の航空自衛隊基地からじいさまがまた専用ジェット機でやって来る。
何で民間機が基地を使えるのかわからんが、いつもの調子でゴリ押ししたのかもしれんな。
田舎企業の楽器会社を世界のヤマハにしたじいさまは、川上天皇、浜松の独裁者アミン、などと呼ばれ畏怖され、「ヤマハ残酷物語」などの本も出ていた。
人使いが荒いし、重役でも何でも首をちょんちょんちょん切るからだろうが、子供達には限りなく優しく「音楽普及の思想」などの本も書いている。
自宅の近くからジェット機に乗って1時間で住民50人のトカラ列島諏訪之瀬島のヤマハ私設飛行場に来るのだから、「ご立派!」と脱帽するしかない。
さっそくじいさまの命令で朝凪は屋久島一湊港を出港、諏訪之瀬島へ向かった。
用件は魚釣りしかなく、今回も「バカ バカ~」の連打を浴びながら攻防が待っているんだろうな。
他の重役・社員を見習い、何でも「ハイ! ハイ!」と素直に聞けばよいのだが、無理難題には逆らってしまう。
我慢ならん大仏の時は、つい・・「じじい」と言ってしまう。
さっそくじいさまに呼ばれご要望を伺ったが、ドクロ瀬で磯釣りをやりたいと言う。
ドクロ瀬は島の先端、切り立った断崖の下にあり、急深で周年激流、大型サメも多い危険海域で、海に落ちればあっという間に流されてドクロになる運命。
うねりが出れば波に洗われ、安全とは程遠い岩場だ。
島に赴任中は常に単独潜水調査が業務だからドクロ瀬の真下も潜水調査したが、アンカーロープをたどって潜り、浮上、吐いた泡は激流で横に流れ、握力がないと潜れない。
根魚も回遊魚も巨大魚はうじゃうじゃいるがまったく釣りにならず、仕掛けは吹っ飛んで行くのだからアンカーを入れての船釣りも不可能。
いつ大波を被るかもわからないこんな危険な場所にヨレヨレのじいさまを渡すことは出来ない。
「危険だから駄目です」
状況を説明すると・・
「バカ~~やって見なくちゃわからないだろうが」
じいさまに同行して来た南西事業所の総支配人が口を出した。
ヤマハ発動機創生期の元社員で、じいさまに取り入り出戻りしたおっさんだ。
初めてじいさまと諏訪之瀬島に来た時、赴任中の野人に足でちょっかい出して軽くあしらわれてコケた。
このおっさんがじいさまをそそのかしたのだ。
「君の腕じゃドクロ瀬に渡せないのかね?」
「渡すのは出来ますが危険な上に年も年だし・・」
じいさまがまた怒った。
「バカ~~ 私はまだもうろくしとらん」
「無理なものはむ~理」 知らんぷり・・・
「私は オーナーだ バカ~~」。
「どうなってもいいんですか?」
「かまわん」
してやったりと、おっさんはニコニコしている。
大物釣らせ、褒め倒して、じいさまにゴマをする魂胆は見え見えだが仕方ない。
「わかりました やります」
「そうかそうか~~~ 」
じいさまはニコニコ顔・・単純でわかりやすい。
しかし、本当に困ったことになった。
こうなったらやるしかないが、どうすれば事故を防げるか、頭の中はそれでいっぱいだった。
ドクロ瀬に上がって釣りをした人は一人もいない。
続く・・
諏訪之瀬島 先端 白い波に洗われる離れ岩 ドクロ瀬
急深・周年激流 大型サメも多い危険海域
海に入ればドクロになる運命
野人にちょっかい出して痛い目に遭ったおっさん・・
まったく責任を取る気がない困ったおっさん・・
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