珍話列伝外伝 列車を止める | 野人エッセイす

野人エッセイす

森羅万象から見つめた食の本質とは

列車を止めたのは野人ではないし、そんなドジな真似はしない。

トンネルを走って隣町へ近道したり、長いのは自転車で真ん中を走り抜けたりはしたが列車は止めていない。

やったのは我が一族、同じ姓のはとこだ。


家の近くに河口があり、そこに鉄橋があった。

小学生の時はこの鉄橋から水によく飛びこんでいた。

路線は単線、鉄橋の幅は非常に狭く、列車をかわせるような心の余裕はなかった。

しかも隙間だらけで下の水面が丸見え、思い切り走ることなど出来ない。

長さは50mほどで機関車の通過には細心の注意を払いながら遊んでいた。


2つ年上のその男は、機関車が来ても逃げず、水に飛びこむこともしなかった。

悠々と線路の上を歩き、警笛を鳴らされても振り向きもしなかったのだ。

機関車は緊急停車、叔母さんは当然のように呼び出しを受けた。

こってりとお説教された叔母さんは言った。

「もうあんな恥ずかしいことはなかった、情けない・・」を連発。

関係者にひたすら平身低頭だったと言う。

野人は笑いたかったが叔母さんに同情した。


前年も、その兄が同じような状況で機関車を止めたからだ。

それほどその兄弟が鈍いか・・と言えばそうでもなく、兄は大男で体力抜群、大分のTV局に入りディレクターとして番組も手掛けたくらいだから思考も正常だ。

弟は津久見高校のボクシング部主将となり、2年連続全国アマチュアチャンピオン、ミュンヘン代表?にもなった。


列車を止めた動機は今でも謎だ。

彼は小学生の頃は常に青鼻をたれ、大仏のようにデンと構えていることが多かった。

まあ、あまり深く考えてはいなかった、列車ごときは気にしないと言うことだろう。

ボクシングの試合でパンチを食ってもあまり気にせず・・ 微動だにしなかった。