中学一年生の夏だったか、生まれ故郷の漁村で叔父さん等と4人で船釣りに出かけた。
父や姉や兄の墓があるこの村で、毎年夏休みはお盆前後2週間を過ごしていた
櫓を漕ぐのは野人の役目で、小学生の頃から朝飯前だった。
岸から2百m、水深20mくらいで、魚は釣れるのだがとにかく暑くてたまらない。
水気が不足すれば野人は死んでしまう。
そこで釣りは放棄、水中メガネにモリを手に海に飛び込み岸まで泳いだ。
釣るよりは突いたほうがてっとり早いと言う考えは社会人になるまで続いた。
その途中、激痛で気を失ってしまったのだ。
発見が遅れれば海底に沈んでいたかも知れない。
「あいつ・・海に浮いとるぞ」と、あわてた叔父さん達が船を漕ぎ寄せ、回収された。
アカクラゲの群れに突っ込み、全身を刺されまくってしまったのだ。
糸の1本や2本はどうということもないのだが、体には数10本の糸が巻き付いていたらしい。
部落では湯を沸かして全身マッサージ、総出で介抱してくれた。
無医村で道路もなく、市営船で1時間半もかかるから救急車は来ない。
バアちゃんは、「ハレまあ~派手にやられたもんだあ~」と、刺された箇所を数えた。
痛がる野人を裏表ひっくり返して点検したのだ。
その数、2百数十ヶ所・・・
ここまで徹底的にクラゲに刺された人間は記憶にないそうだ。
アカクラゲは沖合を漂うことが多く、たまに浜に漂着する。
誰も泳がない沖で群れに突っ込んだ野人は運が悪かったが、まあ、この程度刺されたくらいでは死なないと言うことがわかった。
これで沖が嫌いになるはずもなく、用心するから二度とやられることはないだろう。
いつものように体で支払った授業料と思えばこれからの人生はバラ色だ。
野人が無事だと分かればあとはしばらく笑いのネタになるしかない。
最初は痛かったが、それから1週間は全身が痒くてパンツも穿きたくなかったくらいだ。
海にクラゲが住むのは当たり前で、避ける術を身につければ済むことだ。