おい・・・
今日もあいつが野人の膝にとまった。あいつとはハエのことで1週間前からここに住み着いている。野人農園から車に乗ってついて来てそのまま居座っているのだ。窓を開けてもまったく出る気はない。そして・・いつものように手足をスリスリしている。
いつもは台所の水場にいるが、野人が帰るとこちらの部屋を飛び回り、膝にとまるのだ。目覚めた時もちゃっかり毛布からはみ出した素足の膝にとまってモゾモゾしてる。
叩き出すのは簡単だが好きにさせている。かの有名な俳人「小林一茶」君も言った。「やれ打つな ハエが手を擦る 足を擦る」と・・・
思えばハエと蚊は太古から人間に目の敵にされ、野人だって随分殺生してきた。ハエ叩きにハエ取り紙にフマキラー・・ハエハエ蚊蚊蚊キンチョールも随分愛用した。
しかしこいつだって懸命に生きている。寒くなるまでの短い命だ。蚊は好きになれないが、まあこいつは迷惑かけることもないから仕方ないだろう。少々うっとうしいのを我慢すれば済む。そしてこの同居バエに「ハエ太郎」と名付けた。
しかし・・こいつはあまりにも馴れ馴れし過ぎる。もっと節度が必要だ。
今日こそはこいつに言ってやった。
「おい・・・」
「住まわせてやってもいいが 互いにルールを決めよう」・・・
「まず・・仕事中の野人の目の前を飛ぶな うっとおしい」
「台所は好きに使ってかまわんが 食卓の料理には絶対とまるな」
「それと顔にはとまるな 寝てる時もだ そこまでお主は可愛くはない」
「わかったか 守れん時はひっぱたくからな・・」
「それに・・ハエ捕り蜘蛛に捕まるなよ」
朝、ハエトリグモのクモ太郎も野人のスネにとまって膝で寝ているハエ太郎を狙っていたが、野人が起きだしたのでスゴスゴ退散していった。
ハエ太郎は 野人のお説教を神妙に膝の上で聞いていた、手足をスリスリしながら・・・