木に絡みつく「ツルグミ」 | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

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グミと言えば子供の頃食べた記憶のある人もいるだろう。しかしほとんどの人はグミのお菓子を思い浮かべる。野人はグミが大好きで味にはなかなかうるさかった。甘味もさることながら渋味が抜ける食べ頃が肝心なのだ。一日遅れると鳥に先を越されてしまう。鳥も渋味は苦手なのだろう。酸味や渋味は「まだ食べるのは早いですよ~!」と言う木のメッセージだ。種がしっかり出来上がってから甘味が増し、「はい、食べて運んでね~」と催促するのだ。民家の庭にあるのはナツグミやビックリグミだが、山に行くとナワシログミやツルグミがあった。土壌や日当りの条件で随分味が異なり、旨い木はしっかりと頭に記憶されていた。棘に苦戦したがナワシログミが旨かった。渋いものが多い中、完熟するとまったく渋味を感じなくてとろけるように甘かった。大人からは「グミを食べ過ぎるとフン詰まりになるぞ」とよく脅されたが、死ぬほど食ってもそんなモンには一度もなったことがない。海岸線の山に多いこのツルグミは、他の木に絡みつくように生い茂っている。11月に花が咲き5月頃に赤く熟す。あまり美味しかったと言う記憶はないのだが、数年前山道で熟しているのを食べたが、まったく渋味がなくて甘く美味だった。しかも大粒の実が数珠なりだったから笑いが止まらない。全部持ち帰ってジャムにしようと思ったのだが周囲で鳥達が恨めしげに野人を見ていたのでやめた。あいつらもさぞかしこのグミを楽しみにしていたのだろう。精一杯生きているのだ。野人が木を離れたら群がってついばんでいた。グミの食べ頃は人も鳥も同じだ。図鑑を見るとツルグミは美味しくなくあまり食用にされないとあったが、魚介図鑑もそうだが学者ほど味覚音痴の人種はいない。美味と言われているとか不味とか、要するにたいしたものを食ってはいないのだ。マルバグミにも美味しい木がある。海の食材も山の食材も味の幅は広い。徹底して食い尽くしてこそ全体像がわかる。同じ種でも同じ味などない。マダイにしろアジにしろ、グミにしろキイチゴにしろ、旨いものはとことん旨い。一度食べただけで好き嫌いを論ずるのは早計で、旨いも不味いも必ずその理由はあるものだ。「腐ってもタイ」と言う言葉は野人には当てはまらない。腐ったタイを食うくらいならメダカ食ったほうがまだ良い。海にはタイに匹敵するくらい旨い魚はウジャウジャいる。日本人ほど名前、つまりブランドに弱い人種はいない。