台風接近 迎撃体制 | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

野人の事業にとっては最大の大敵、台風が真っ直ぐこちらへ向かっている。海の仕事について数十年、毎年の事ながらため息が出る。船一隻ならともかく、桟橋などの施設やマリーナとなると迎撃準備と解除で二日から三日費やす。ボートだけで50席以上預かっているのだ。直撃を受けようものなら小さなボートは陸上でひっくり返ってしまうし、船台ごと動いて隣船と衝突する。風向きと強さによっては陸上でアンカーを打たなければならない。風の強さと正確な方向を読むのは絶対に必要な事だ。どちら側を通過するかで風向きはまったく異なる。数十年前は日に二回ラジオの気象情報に釘付け、作図していた。ラジオから、「南鳥島では・・南南西の風風力5・・」と地図に記入して、気圧配置から進路を予測するのだ。ラジオでも予測はしていたが、まったくアテにはならなかった。外れてダメージを受ける事のほうが多かったのだ。最近は作図も必要なく随時情報がわかる。それに予測の精度も上がってきた。しかしたとえ90%の確率であっても、迎撃は最悪のことを考えて準備する。準備の90%は徒労に終わることのほうが多いが、それは良いことなのだ。迎撃の為のロープは多い時で重さにして数百キロ、陸だけでなく海上の船から桟橋を蜘蛛の巣のように張り巡らせる。だから解除だけで丸一日はかかるのだ。台風で一番怖いのは通過した後の吹き返しの強風だ。北西の風が多いが、東の風でロープが伸びきり、張りに遊びが出来る。そこで反対方向にしゃくられると衝撃で切れてしまう。だから台風直撃の時は泊り込みガ多かった。緩んだロープを締め付け、遊びをなくす為だ。当然雨や風にさらされる、しかも真夜中が多い。桟橋からは船を離していて乗れないから、最悪の場合は海に飛び込み船まで泳ぐ事もある。50mの風にあおられて桟橋から海の中まで飛ばされたこともある(笑)。それだけの強風はディンギーヨットも空に舞い上げる。空からヨットが降ってきて近くの草むらに突き刺さったこともあるのだ。当然木もなぎ倒されてしまう。驚いたというか笑えたのは、ワゴン車で様子を伺いに岸壁を見に行った時、海まで50mもあるのに屋根に「ゴン!」と何かが当たった。落ちてきたのは真珠養殖に使うドッジボール大の黒いブイだった。それが空から降ってきたのだ。思わず笑えたが、次の瞬間車が風で持ち上がり傾いたのだ。ディンギーヨットの要領で体重を反対側にかけたら元に戻ったが、こんな場所で転覆したら洒落にもならない。帰れなくなるからあわてて退散した。

前の会社にいた時、ホテルやゴルフ担当者から電話がよくかかった。「明日の天気は?雨は?」と言う類が多いのだが、「気象庁じゃねえ、雨が降ろうが振るまいがそんなことは知らん、風向きと風力はわかるが・・」いつもそう答えていた。海は雨を気にする必要はないからだ。雨雲は天まかせ、そんなことはアメダスしかわからない。