エソの自家製蒲鉾 | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

       50cmのマエソ

       美しい白身


       古代蒲鉾(今の竹輪)


エソには色んな種類があり代表的なものは「マエソ」だ。マエソは昔から蒲鉾の原料にされ、タラの輸入すり身が主流の現在、純粋の国産のエソの蒲鉾は最高級とされている。エソと並んで重宝されるのが「イシモチ」だ。両方とも馴染みが薄く、魚屋にもほとんど出回らない。小骨が多かったり、弱りやすいからだ。肉質は綺麗で、鮮度の良いものは刺身でも塩焼きでも美味しく食べられる。しかし特質は何と言っても粘りのある白身だ。だから最高の蒲鉾が出来る。エソは釣りの世界では完全なる外道でほとんど捨てられている。野人は数十年前からエソを大切にして練り物を作っていた。最後に作ったのは10年以上前だが、知人が10匹の大型エソを捨てずに持ってきてくれた。久しぶりにすり鉢を取り出し蒲鉾作りに励み、美味しく懐かしくいただいた。

今の蒲鉾のほとんどはすり身を水で晒す。昔は晒さずに板に盛り付け、炭火で板面をじっくり焼き上げ、反転して表面を急速に焼き上げていた。これは絶妙な火加減で最初の加熱と次の加熱で歯ごたえのある蒲鉾を作り上げる高等技術で職人芸だった。デンプンの入った蒲鉾は蒲鉾ではないと言う時代もあったのだ。野人はそんな真似は出来ない。郷土に伝わる「アジのすり身」と同じ要領で、塩と砂糖と卵白を加えながらすり鉢で根気よく練る。それを冷蔵庫で数時間寝かせ、皿に盛り付けて蒸し器にかけた。一部は切ってきた青竹に巻きつけて焼き上げた。一般的な竹輪だが、本来はこれが蒲鉾だったのだ。蒲の穂に似て、武器の鉾にも似ているところから蒲鉾と言う言葉は生まれた。最初は魚のすり身を竹に巻きつけてキリタンポみたいにして焼いていたのだ。大名や武士は蒲鉾を食べたいのだが、庶民的で、竹にかぶりつく「下品」な蒲鉾に抵抗を感じた。そこでお殿様用に上品に板に盛り付けて献上したのだ。名前まで盗られてしまったので、庶民の蒲鉾は仕方なく見た目のままの「竹輪」になってしまった。権力には逆らえない。

野人の蒲鉾、いや庶民的な竹輪は、上手ではないが素朴な味で本当に旨い。すり身にエソの皮を巻きつけて焼くともっと旨かったのだが、そこまでは頭が回らなかった。手間隙をかけた割には「野人の蒲鉾」は形も悪いし焼き加減もムラがある。旨そうに見えるかな?とにかくおにぎりも満足に握れないから仕方がないだろうが・・・・