がっぽり 濡れ手に牡蠣! | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

「お!!牡蠣売っている」と、驚いたのは大人になってからだ。

魚屋では当たり前なのだが、それまでは牡蠣は拾ってくるものだとばかり思っていた。

売っているものは形も揃っていて、大きさも立派なのが不思議だった。

 

子供の頃、サザエ、アワビを捕るのは技が必要で苦労したが牡蠣は何処にでも転がっていた。

むしろ天敵で、海に入って傷を負う原因のほとんどが牡蠣だった。

 

夏休みにビッコ引いて歩いていると「たかしちゃん、足どうしたん?」って声が掛かる。

犯人はほとんど牡蠣の奴だった。膝にも傷が絶えない。

いつも「牡蠣にやられた・・」と答えていた。2番目はウミシダ、3番目がクラゲだった。

 

岩に牡蠣が張り付いてさえいなければ、どれだけバラ色の少年時代が送れたことだろう。

しかし、この味がなかなかイケるので、獲物が捕れない時は悔し紛れに割って食べていた。

 

大人になり、春は卵を持つから食べてはいけないと言われたが、当時はおかまいなしに春夏秋冬食べていた。

岩に張り付いたものは殻を割って身だけ、海岸に転がっていたり、小石にくっついている牡蠣は、蹴飛ばして殻ごと捕り、焚き火に放り込んで焼いて食べた。

最初は美味しいが、食べ過ぎると飽きてしまう。

 

家に持って帰ると、「またこんなモノ捕ってきて!」と面倒くさがられるのでいつも浜で食べていた。

ロープや船のチェーンや桟橋に団子状にぶら下がっている牡蠣は捕りやすかった。

牡蠣の養殖はこの方法をとっている。

 

とにかく牡蠣は一年中好きなだけ食べられた。

そのせいか大人になった今も、牡蠣だけはどうしてもお金を出してまで買う気にはなれない。

牡蠣はアサリと同じように内湾などの養分の豊富な海に多く、外洋には少ない。

豊かな森から流れ込む河口を持つ湾内には太った牡蠣が育つ。

 

磯観察の案内中、「これが牡蠣です」と言うと、「エ~!?」と皆が驚く。

割って見せると、「牡蠣だ!牡蠣だ!」と目を輝かせる。

 

冬に、牡蠣を知らないという家族を連れて浜で牡蠣拾いをした。

野球ボールくらいの石に、大小4個くらい付いている牡蠣も石ごと拾った。

それをそのまま一斗缶に入れて、フタをして火にかけると、牡蠣から適当な水分が出て蒸し焼きになる。少し口が開いたら出来上がり。野趣溢れる料理で食べ放題だ。

石ごと皿に乗せ大きいのから順番に食べる。

 

中には何年目かわからない濃厚な味の牡蠣もある。小粒だが磯の香りが強くて美味しい。

市販のセル牡蠣の剥き方も、習えば驚くほど簡単で、自分で出来た時、感激する人が多い。

天然のカキだと形が不揃いで剥くのは難しい。天然物は野趣溢れる食べ方がいい。

 

内湾沿いの道路からは獲り尽くせない程牡蠣が見える場所が多い。

白いものがたくさんついているから注意して見ればすぐに牡蠣だとわかる。