温故知新 徳川三百年の崩壊 | 野人エッセイす

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人は歴史から何を学ぼうとしているのか。

何を学ぶかはそれぞれの判断で天と地ほど違ってくる。

考古学や史跡巡り、寺社巡り、古戦場、文化などジャンルは広い。

高校の日本史、世界史ではひたすら人名、地名、年代を覚えさせられた。

海外旅行をすれば必ず世界遺産にもなるような史跡見物をする。

過去に起こったそれらのものを知る事が歴史から学ぶという事なのか。

 

温故知新とは「古きを温め新しきを知る」、つまり過去から学び取り、未来に役立てるという事。

自分の為であれ、世の中の為であれどちらでも構わない。

遺跡や茶道や歌舞伎や相撲などの文化を大切にして温め続けるのは良いのだが、それでは温故温故になってしまう。

国家も自分自身も過ちを繰り返さず未来を築くにはもう少し視点を変えて歴史を見つめてみたらどうだろうか。

 

徳川幕府が3百年続いたのは誰でも知っていること。

世界でもこれだけの長期政権はなく、「お家」と「会社」の存続と言う共通点から「徳川家康」は松下幸之助と並ぶ経営者の愛読書にもなっている。

学校の歴史でも学ぶように、統治の為の武家諸法度、参勤交代、それに様々な改革があった。

 

「違った視点」とはそうではなくて、世界でも稀な長期政権「徳川幕府」が何故「たった3百年で滅んだのか」そうは考えられないだろうか。

何故続いたかより、何故滅び去ったか、そちらのほうが余程未来に役立つ。

いつもそういう視点で歴史を学んで来た。

家康が幕府を開くまでのいきさつはテレビでも繰り返し放映もされているから皆知っている。崩壊した経緯も知っている。勝海舟や坂本竜馬などの幕末の志士も。

 

ところが、そんな長期政権が何故滅んだか、原因は?と聞かれてすらすら答える人がいない。

人名や年代、事実ばかり知っていて肝心な事が抜けているような気がする。

幕末は動乱の時代で色んな事件があった。

最大の功労者西郷隆盛までが盟友と戦い命を落とした。

幕府が滅ぶ前と明治維新までの間がクローズアップされているが、それだけでは直接的な敗因しかわからない。

幕府の権威が衰え、滅ぶべくして滅んだ、それだけのことだ。

誰がどのような行動を取ろうが、遅かれ早かれ幕府は滅んだだろう。

 

幕府が滅んだ最大の原因はその「目的」にあった。

組織を統治し続けた武家諸法度も参勤交代などの諸法も「徳川家」の為だけのものであり、家臣である諸大名の為の幕府ではなかったと言う事だろう。

過酷で抜け目ない法が幕府を「3百年」持たせた。

幕末の戦いは国民不在、徳川と大名の戦い。薩長2藩に対峙する幕府軍に、家臣である他藩は味方しなかった。

本当に幕府が必要で大切なら幕末は来なかっただろう。

つまり最初から幕府は必要がなかったと言うことだ。軍事力に従ったが、それが衰えたら従わない。

 

これは世界の歴史の中で国家の興亡に共通していることだ。

幕府がもっと大名を大切にして、なくては困る存在になっていたら幕末は来なかった。

世界の歴史でも独裁が続いたためしはない。

だから10年も3百年も同じ事なのだ。それだけわかれば良いと思っている。

天下を制した秀吉、目前で滅んだ信長、三者の「覇者」の期間は違っても、自分にとってはまったく同じもの、「組織崩壊」の原因を徹底研究してこそ温故知新ではないのだろうか。

 

戦国時代は「滅びの原因」を徹底して研究したが、極端な思想と暗殺ばかりの陰惨な幕末に関心は湧かなかった。あまり学ぶべきものがない。

アメリカ合衆国の歴史でも、リンカーンのような指導者が一部の人間に暗殺される、歴代大統領もまた同じ道をたどったものが多い。

人の心から欲が消えない限り争いが絶えることはない。