現在、療育手帳の判定基準を全国で統一化する動きに伴い、厚生労働省・
こども家庭庁の研究等で開発が進められているABIT-CVの導入・一括活用が
益々注目を集めてきている。
自治体ごとの判定の格差をなくし、判定待ちの期間を短縮するという行政上の
目的において、ABIT-CVは非常に優れたツールである。
しかし、現場の支援者や当事者の間では「これ一択(完全移行)になって
しまって本当に大丈夫なのか?」という不安の声も若干上がっている。
今回は、検査の特性を踏まえつつ、今後のアセスメントのあり方について
簡潔に記す。
1. ABIT-CV一択化に伴う「境界域」と「凹凸」の懸念
ABIT-CVは、既存の各種知能検査(新版K式、田中ビネーなど)や適応行動尺度
(S-M社会生活など)の得点と高い正の相関を示しており、アセスメントツールと
しての客観的な妥当性は十分に実証されている。
しかし、相関が高いからといって「完全に置き換えられる」わけではない。散布図を
詳細に見ると、プロットが対角線から離れる「個別の乖離」が一定数存在する。
こうした懸念を解消するためには、WISCやVineland-IIを、目的に応じて
使い分ける視点が欠かせないと思う。
(1)ABIT-CV:全体像の把握と客観的スクリーニング
全国共通の客観的な基準を用いて、知能標準得点と適応行動標準得点を迅速に
把握する「共通の入り口」として機能します。
(2)WISC(ウェクスラー式):知能構造の「詳細な凹凸」の分解
「言語理解」「視空間」「流動性推理」「作業記憶」「処理速度」といった複数の
指標で知能構造を多角的に分析。
「耳で聞くほうが理解しやすい」「処理スピードに負担がかかりやすい」といった
具体的な強み・弱みを可視化する。
2..求められるのは「2段階(ハイブリッド)アセスメント」
これからの判定および支援の現場に求められるのは、「ABIT-CVか、従来の検査か」
という二者択一の議論ではなく、ABIT-CVとWISC+Vineland-IIを組み合わせた
「2段階のアセスメント運用」が理想。
- 第1段階(判定の入り口・一次スクリーニング):ABIT-CV
迅速かつ客観的に全体的な適応・知能の水準を測定し、行政手続きや
判定の標準化を図る。
- 第2段階(支援計画の深掘り・精密精査):WISCなどの個別検査
ABIT-CVで境界域と判定されたケース、実生活の困りごとと数値に差がある
ケース、あるいは発達特性(ASDやADHD傾向など)の凹凸が強く疑われる
ケースに対して、WISC等を用いた詳細な精査を行う。
おわりに
アセスメントの真の目的は、「数字を出すこと」や「行政上の区分を決めること」
だけではなく、「その人がどのような支援を必要としているかを明確にし、適切な
生きづらさの解消につなげること」にある。
制度の効率化や全国統一化(ABIT-CVの活用)の恩恵を享受しつつも、個別の凹凸や
境界域にいる当事者のニーズを取りこぼさないよう、WISC等の個別検査による
「深掘りの視点」を確保し続ける柔軟な運用を期待したい。
