ABIT-CVがモデル自治体で今年2026年から試行され始めたことは既に

記したが、自治体レベルでも具体的な議論が始まっている。

例えば、今年3月13日の広島県議会では、

 

「療育手帳の判定方法の改定について」

 

が取り上げられた。

-

主要な質疑事項を見ると、

 

療育手帳の判定方法及び判定基準の統一化

療育手帳の新たな判定検査ABIT-CVの導入

療育手帳の新たな判定検査ABIT-CVの評価

 

と、「ABIT-CV」の名称がはっきり記されている。

委員会では、ABIT-CVについて「知的機能と適応行動を一体的に評価でき

今後の全国共通の療育手帳判定に活用できる可能性のある検査」とし

取り上げられた。

 

そのうえで、広島県としてモデル事業への参加や、将来的なABIT-CV導入を

どのように考えているのかが質問された。

県側は、モデル事業について国から具体的な内容が示された段階で参加を

検討し、本格導入についても、モデル自治体での試行を経て、国から妥当性の

評価や導入方針が示された段階で対応を検討する、という趣旨の答弁をしている。

 

つまり、この時点で「広島県がABIT-CVを導入すること」が最終決定したわけ

ではない。しかし、国の動向やモデル自治体での試行結果を踏まえながら、

具体的に検討していく局面に入っていると言えるだろう。

 

私が特に興味深く感じたのは、ABIT-CVと、現在広く使われているWISCや

WAISをどのように評価するのかという議論である。

県側はABIT-CVについて、知的機能と適応行動という2つの側面を一体的に

評価できること、さらに自治体の判定業務の負担軽減が期待できることを

挙げている。

 

一方、ABIT-CVの実施には実施者のスキル習得が必要であり、

「短時間の簡便な検査によって、本人の特性を十分に評価できるのか」と

いう課題についても言及している。

 

ここは非常に重要な論点である。確かに実施法を学ぶ必要はあるが、

これまでの心理検査に比べれば、実施法の習得そのものは比較的容易だと

考えられる。

一方、WISCやWAISについては、知的機能を測定する検査として信頼性・

妥当性に優れていると評価されているものの、実施には相応の時間を要する。

また、知的機能と適応行動の2軸で評価するためには、適応行動について

別途評価する必要もある。

 

「より詳しく評価すること」と「限られた人員と時間の中で多数の判定を行うこと」。

療育手帳の判定現場では、この両立を常に考えなければならない。

また、ABIT-CVをめぐる動き自体は、すでに全国の判定現場に広がっている。

2026年に公表された全国調査によると、回答した判定機関のうち、ABIT-CVの

説明会に参加した経験のある機関は140か所に上った。

 

ところが、その140か所に理解状況を尋ねると、84.3%が

 

「ABIT-CVについて理解はしたが、検査実施のイメージはできていない/

疑問点がある」

 

と回答している。

これは実に興味深い数字だ。

ABIT-CVという名称や導入の目的は、判定現場に知られつつある。しかし、

「では、実際の療育手帳判定でどう運用するのか?」

という段階になると、多くの現場がまだ具体像を描けず、不安や疑問を

抱えているのが現状である(実際のところ、実施方法は非常に簡単だ)。

 

全国調査を見ると、その疑問はかなり具体的だ。

 

・従来の検査による判定結果との乖離(違い)をどう考えるのか

・適応行動を保護者からの聞き取りで評価することの妥当性

・ABIT-CVの結果を他の支援制度でも利用できるのか

・特別児童扶養手当などの診断書に活用できるのか

・教育機関ではどのように扱われるのか

・判定基準が変わった場合、これまで手帳を取得していた人をどう扱うのか

・新しい検査を導入するための職員研修やシステム改修のコスト負担を

どうするのか

 

など、多くの実務的課題が挙げられている。

つまり、ABIT-CVの問題は、単に「心理検査の種類が変わる」という話に

とどまらないのである。

 

療育手帳制度そのものが変わろうとしている

厚生労働省においても、療育手帳の判定方法や基準が自治体ごとに異なることは、

長年の課題とされてきた。

さらに、国際的な知的発達症の診断基準では、IQだけでなく、「知的機能」と

「適応行動」の双方から総合的に評価することが重視されている。

こうした流れの中で開発されたのがABIT-CVである。

厚生労働科学研究では、ABIT-CVについて、知的機能と適応行動を評価する

尺度として高い信頼性・妥当性が確認されたと報告されており、短時間で

実施可能である点も大きな特徴とされている。

 

国もすでにABIT-CVを一部のモデル自治体で試行する段階に入っている。

そう考えると、広島県議会での議論は決して一地域だけの特殊な話ではない。

国で検討されてきた療育手帳制度の見直しが、いよいよ実際に判定を担う

自治体の問題として具体化し始めた一例と捉えることができるだろう。

「どの検査が優れているか」ではなく

ABIT-CVをめぐる議論は、「ABIT-CVとWISC・WAISのどちらが優れているのか」

という単純な優劣の比較ではない。

求められているのは、

正確に評価できること

全国で公平な判定ができること

本人の生活上の困難を適切に捉えられること

現実の判定現場で継続的に運用できること

これらをいかに高い水準で両立させるかである。

 

さらに忘れてはならないのは、判定方法や基準が変われば、これまで手帳を

取得できていた人が対象外になったり、逆に、これまで対象外だった人が

新たに取得可能になったりする可能性がある点だ。

療育手帳は単なる証明書ではない。福祉サービスをはじめ、各種手当、

税制上の措置、障害者雇用、教育・福祉上の支援、交通機関の割引など、

様々な支援につながっている。

したがって、判定に用いる検査法や基準の変更は、単なる心理検査の

切り替えにとどまらず、療育手帳制度のあり方そのものに関わる問題なのである。

ABIT-CVが実際の判定現場でどのように試行され、評価されていくのか。

そして、療育手帳制度そのものが今後どのように変わっていくのか。

引き続き注視していきたい。