Rocket of the Bulldogs『綯い交ぜにし発熱した物語は辺りを払い時に冷たい風が吹く』
―兎追いし かの山へ。―
“帰るふるさとを持たない全ての人たちのホーム”それがロックだと、田中宗一郎がつぶやいていたと思う。私はうん、そうそう。と共感していた。そこから、妙な妄想が脳でおっぱじまり、だから自分は演歌を愛聴しないのだと、こじ付けてしまった。何故なら、演歌はどれだけ遠く離れていても、必ず帰る場所がある人のための音楽だと思ったからだ。もちろん演歌を愛する人の中には異論を唱える人もいるだろう。しかしそれが、演歌を“日本の心”だと称するものに至らせている理由の一つではないかと推測する。古き良き日本はそこにあったのだと。私のような一度ふるさとを失った者は、死ぬまで演歌を愛聴することは出来ないだろう。残念でしかたがない。
その失ったふるさとから、程遠くない場所、滋賀県甲賀市からRocket of the Bulldogsという5人組ロック・バンド、通称「RotB(ロットビー)」が姿を現した。昨年あたりから音源を出し始め、ファースト・ミニアルバムがこの本作である。
作品の音楽的な部分では、メタル・コア、へヴィー・ロックな音像。ボーカルの特徴はシャウトとポエトリーリーディングな部分を楽曲、小節ごとに使い分けている。ただ、現在の彼らが海外の同系統のロックのダイナミズムを持ち合わせているかと聞かれれば、まだその途上だと言えるだろう。
しかし、今の彼らの特長は別のところにある。それは、過激なバンドによくみられる様式美に捉われた佇まいではなく、「街を」のPVでもわかるようにメンバーの上着が白色で統一されているという点を含め、ロックもつ建設的な方程式を使う彼らの楽曲からは、ギター・ロックの片鱗も端々に感じる。それらに絡まり、蒼さの残像とともに、彼らのメッセージというものが歌詞で語られている。
長いタイトルの「綯い交ぜにし発熱した物語は辺りを払い時に冷たい風が吹く」は、言うなれば、RotBが未来に立っている運命を、産声を上げた今の彼ら自身が予言するような題名だと私は思う。
でも、ノストラダムスの予言が当たらなかったように、常に予想は覆されるのが世の常である。
彼らがこれから歩み、この題名に繋がるような場所、そんな平原に立ったとき。そこから、見えてくるのは、メタルでもデス・ボイスでも、ヘチマでもない景色かもしれない。そんな可能性もあると私は思っている。
少なくとも今の彼らは、「街を」の歌詞を引用するなら、“待ってなんて女々しい言葉/俺は使わない使いやしない/くだらないプライド/腐りきった鎖を/その手で引きちぎり”
そんな瞬間にロケット・オブ・ザ・ブルドックスは今、存在している。