HiNDS『LEAVE ME ALONE』 | MUSIC TREE

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邦ロックを中心に批評していく
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―もうガールズ・バンドなんて怖くない―

 たしか、2005年だったと思うが、その当時付き合っていた彼女と別れて、少し経った頃のこと。夢の中でボクシングの試合の映像が出てきて、その中で、壮絶な打ち合いとドバドバ流れ落ちる赤黒い血糊を目撃したところで目が覚めた。
 今までに見たことのない夢だったから、その後、おかんに夢の内容だけを話したところ。「赤い血っていうのは、女性を表すらしいから、女の怖さを知ったんちゃう?」と一言。「知らんがな」と思いながらも、何とも言えない気持ちになったのを今でも覚えている。

 スペインのマドリード出身の女性4人組のバンドHiNDSのデビュー・アルバム『LEAVE ME ALONE』日本盤のパッケージには、新世代DIYガールズ・バンドHiNDS(ハインズ)fromマドリード/やりたい放題(Leave Me Alone)で世界征服と銘打たれている。なんじゃそらと思いながらも聴いてみると、正にその通りという作品だった。
 しかし、僕は最近このカールズ・バンドという言葉に少し違和感を持っている。女性が組んでいるバンドだからガールズ・バンド?それは当たり前だ。ただ、本人たちはどうなのだろう。ガールズという括りに入れることが、ポジティブなことかネガティブなことかということである。
 古い話になるが、与謝野晶子が女性解放思想家として表現していた頃から長い年月が過ぎ去った。特に今日の世論から考えても、男女平等を重要視する中で、そういう区別は良くないという考えが出てきても不思議じゃないのではと思っている。

 四方山話に聞こえてきたかもしれない。例えば、日本の女性ミュージシャンを引き合いに出してみたい。GO! GO! 7188のユウはデビュー当時、男ならもっとカッコいいロックバンドになれたのに、というような発言をしていた。
 このユウに近い世代で、日本の女性シンガーソングライターのパイオニア的な存在として椎名林檎がいる。音楽的な側面は一先ず措いといて、女性が社会に立ち向かう佇まいそのものの一つのフォーミュラを提示したのが彼女だった。女性とはこんなにも強く、社会に対して表現を提示いけるんだよということを体現してくれたのだ。つまり、新たな女性アーティストの道を切り開いてくれたとも言える。
 だからこそ、その後の女性音楽家たちには、女性であるということを敢えて提示しなくても、戦える方法論が用意されていたのだ。その後出てきた女性バンドの、草分け的な存在がチャットモンチーだと私は考える。(なんでこういうバンドが男子から出てこないかなーと時々思う)彼女たちはもう無理して、女だということを出さなくても、ロックバンドとして立てるのだ。そこで歌われるのは、ホントに女性の生々しい感情の吐露であり、それをそのままロックとして昇華した結果、新しいガールズ・バンドを確立していけたのである。

 それから年月が経った今、HiNDSの彼女たちが歌うのも、普通の女子の生々しい感情の吐露であることに変わりはない。
 彼女たちが奏でる、英国特有のエバーグリーンなメロディーとふらふらなギター、自由気ままなボーカルからは、米国のザ・ストロークス、英国のアークティック・モンキーズ等を彷彿させる。2000年代初期~中期のロックンロール、ガレージロック・リバイバルを通ってきたあとに鳴らす音をHiNDSは表現しているのだろう。

 スペイン出身の彼女たちから発信された音から考えると、昨今のグローバル社会によって、ロックンロールの中心がもう、英国と米国にとどまらないことを伺わせる。もちろん発祥の源泉はそこにあるのだが。その水脈は、今は世界に流れ、ひょんなところから温(音)泉が湧き出ることもありえるのだ。もちろん、日本も例外ではないだろう。これもまた、ネットがもたらした恩恵と代償だと思う。

 何れにしても、ガールズ・バンドは必要。絶対に男から彼女たちのような表現は出てこない。絞り出しても出てこないだろう。だから男と女はやっぱり違う生きものなのだ。
 最後にもう一つ、よもやま話を。スペインの闘牛とかけまして、男と女と解くその心は?どちらも赤いものに突進するしかない。あ、この場合、闘牛は赤色に興奮していのではないですという横槍はいりませんので。「私のことはほっといて!」

 お後がよろしいようで。




Leave Me Alone/SMJ