吉田ヨウヘイgroup『Paradise lost, it begins』 | MUSIC TREE

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邦ロックを中心に批評していく
音楽ブログです。更新不定期。

-何も失っていない世界から始めよう-

そこかしこにインディーズ感を匂わせる、オルタナティヴ・ロックだ。セクステッドであることから、フルートやアルト・サックス、ゲスト・ミュージシャンによるトランペットなどが楽曲に混ざることで、ジャズ感というより、バンドサウンドの異質さや奇妙な色彩を与える役目を果たしている。例えるなら、宮崎駿の映画のようなファンタジックな描写の裏に隠されたシリアスで滑稽なリアリズムを僕たちに与えてくる。

タイトルの通り、何かを失ったような余韻が漂っている。ただロック特有のそれに対しての怒りをあらわにしたり、悲しみに打ちひしがれるような感情表現は皆無なのだ。
すべて、横目で風景を追っているような、伝え方として決して胸ぐらを掴んで伝えたりはしない。

メンバーを含め、女性ボーカルがフューチャーされている曲が多いのも特長で、その声からは意識的な無機質さを感じる。ネット、ボカロなどをフォローした先の世代感覚が無意識に出ているのではないか。だから、生の楽器達から奏でられる音、それを扱う彼らの肉体性さえも”正常なクールさ”というベールをまとっている。

中心人物の吉田ヨウヘイの淡々とした歌唱、言葉の紡ぎかたからは、平原でただ一人棒立ちの人物が大きな距離感を隔てている大切な人へ思いを伝えようとする、そんな、なんとも歯痒い感情が湧き上がってくる。
しかし、ラストの曲『間違って欲しくない』からは、間接的な感覚だとしても、言葉にして伝え続けるしかないという隠されたパッションも垣間見える。

”Paradise lost, it begins”という作品から聴こえる声は…そう、僕たちは失った事すら知らない。だからこそ、今が始まりになりえるのだ。



paradise lost, it begins/吉田ヨウヘイgroup

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