彼女たちがついにフェイクとリアルの間に大きな風穴を開けた作品だと言える。リード・シングル「東京」はこのバンドを変えたと言って差し支えないだろう。おそらくこれ以降、このバンドはこの曲を軸としていきながらも、避けて行かざるを得ないし、僕たちはこのような曲を求め続けてしまうはずだ。それ位のマスターピースだと言っていい。
アルバム全体はこの曲を水源として、現実感を捉えながらも、夢の国を描き続けていく。逆に言えば、これまでのきのこ帝国は夢の国を夢想しながらも現実を突きつけていたのかもしれない、だから刺々しくダークに、シューゲイザー・サウンドに想いを投影する必要があったのだ。今のこの人たちは、リアルを受け止めると決めたのだろう、タイトルにも相応しく、多方向に音楽的趣向が飛び立っている。
ロック、R&Bやグランジ、流行りの4つ打ちビートなどが鮮やかに作品を着色させていて、それがポップミュージックとして機能している。さらに佐藤が女性ボーカルとしての意味合いを徐々に強めてきたことも興味深い点だ。
言うまでもなく、ターニング・ポイントとなる傑作である。