back number/ラブストーリー-女々しいだけで終わらせないKind of Love | MUSIC TREE

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邦ロックを中心に批評していく
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メジャー三枚目のアルバム。曲幅の引き出しがたくさんあるバンドでもないし、通して聴ける作品もこれまでなかったが、アルバムを発表する度に、少しずつ成長している印象を受ける。そして、通して聞くことの出来る、長い間愛される作品をついに彼らは発表した。女々しくて女々しくて、ラブソングばかり歌ってきたバックナンバー。そんな彼らが本作で紡いだラブストーリーはきっとたくさんの人に愛される物語であり、そこから生まれる新しいラブストーリーには大きな力が宿ることだろう。



女々しいと言われるバックナンバーの音楽。
そもそも男は大抵女々しい生き物だと僕は思っている。まず女々しいという言葉を女性に使うことはないのだから、やっぱり女々しいは男のための言葉であり、男は女々しい生き物だと推測する。

その女々しさをもし肯定できる手段があるとすれば、ロックンロールという魔法が適当だと僕は思う。三人の演奏に乗ると清水依与吏が書く女々しい歌詞は何故か異常に輝き出す。そしてそれが新しい恋に、未来に向かっていく力に変化していく姿、その過程こそがバックナンバーの魅力だと僕は思う。その魅力が本作ではこれまで以上にわかりやすく、色濃く表現されている。女々しいだけで彼らの音楽は終わらない。女性目線の歌詞も多い彼ら。いい男はいい女の理解者であり、その為に女々しさが必要であるとすれば、バックナンバーの音楽は逆説的に男らしいと言えるものではないだろうか?などと考えてしまう。

そんな女々しさの裏に隠されたある種の男らしさが垣間見える、彼らの歌の誠実さを確認できるナンバーが本作の1曲目に収録されているのは実にわかりやすい。ちなみこの曲はラブソングではない。所信表明演説のようなものだと僕は捉えた。

冷たい雨と分厚い壁が また僕に手招きをしている
辛い思いはしなくていい 僕の弱さにつけ込んで
目の前全部ぶち壊せたら その勇気があれば
正しいと思う事だけを 歌って描いて息が止まるまで(聖者の行進)


「僕の弱さにつけこんでくれ」なんて歌う歌手が世の中にどれくらいるだろうか?もはや「僕の弱さを利用してくれ」と言っているようなものだ。弱いことは短所であり、だから強くなりたいと歌うのが普通だ。この1曲目で彼らはリスナーと自分の弱さを引き受け、真実だけを歌うことを大きな声で主張している。その主張をまっすぐに届けるために彼らは1曲目にラブソング以外の表現方法を用いている。ここには生ぬるい空気は不要だ。
前作bluesでも同じ手法が使われたが、”青い春”で歌われたのは理想の未来を願い、決まった場所にしがみつき、踊り続けるだけの主人公だったように僕は思う。今作ではその主人公が確かに前に走りだしたような躍動感、それに伴い発生した決意を感じ取ることが出来る。「自分達が歌ってるラブソングは自分達が正しいと思っていることに違いなく、どれだけ女々しがられても、そこに嘘偽りはないのだ」と歌っているように僕には聞こえた。
この1曲目のおかげで、2曲目から続く数々のラブソングに潜む生ぬるい誤解は消えていく。


それでは、所信表明演説の後に収められた数々のラブストーリーを聴いてみよう。
まずわかるのは前作以上にポップに振り切った楽曲がたくさん収録されていることである。手を離す前と後で変わってしまった心情を明るいメロディで奏でる”繋いだ手から”。はじめて聞いた時にスピッツの楓を連想させるほどの美しいメロディとそれがイメージさせる寂しい感情と情景が押し寄せるバラード”fish”。そしてひと夏の届かない憧れをストリングスとそれに、寄り添うバンドサウンドによって丁寧かつ、派手に表現した極上のポップス”高嶺の花子さん”。このシングル三曲のポップ感がまず素晴らしい。



一方では”003”や”MOTTO”のような激しいナンバーも本作には収録されている。前作までに漂っていたロックバンドとしての頼りなさが急になくなった。何が彼らをそうさせたのか?は謎ではあるが、僕が以前から感じていたバックナンバーの最大の課題は解決されたようだ。
また、下町で繰り広げられる君と僕の等身大の生活感が漂う”君がドアを閉めた後”、昭和歌謡風の”こわいはなし”、言い訳してないで自分を磨いていこうと元気に歌う”ネタンデルタール人”のコメディテイストなどは今までにはなかった作風であり、新しさを感じることも出来る。

比較的、聴きやすいバランスで展開される優秀な作品。最後には彼らの真骨頂とも言えるミディアムなバラード”世田谷ラブストーリー”が収録されている。彼女の気持ちなど無視して、終電に間に合うように彼女をうっかり送ってしまった情けない自分への反省の歌である。そして君に向けられた歌でもある。本当に何気ない普通の曲なんだけど、僕はこういった普通の歌が好きだ。

普通。個性派バンドと呼ばれる大勢の才能が切磋琢磨している現代の音楽シーン。まるでそことは関係なく、マイペースに奏でられるバックナンバーの音楽に僕は安心感と、この時代ならではの新鮮さを感じているのかもしれない。
ロックバンドと呼ぶには優しすぎるけど、弱々しくはない。こういうタイプのバンドには長い間、会っていなかったなぁと思う。これがオリコン二位っていうのがまた最高であり、嬉しい。



ラブストーリーと名付けられた今作、長編小説的ではなく、どちらかと言えば短篇集のような仕上がりになっている。誰もが感じたことのある恋のワンシーンをいくつか切り取り、提示することで、「恋とは何か?」という命題を自分達が語るのではなく、リスナーに考えてもらうような作りである。僕はミスチルのKind of Loveと似た空気、魅力を感じ取った。
90年台かよ!と突っ込みたくなる初期ミスチルのような恋に恋する甘酢っぽい少年性、その裏であれこれ妄想を繰り返すスピッツのような上品な野生が同居している。が、懐かしいで片付けるのはちょっと違う。ということはアルバムを聞いてもらえれば理解できるだろう。バックナンバーはバックナンバーにしかなれない。

バンド、およそロキノンに分類されてしまうかもしれないが、ポップスな作りを意識している。この王道ポップスな作りが個人的にはツボである。まだまだ未完成な部分も見受けられるが、逆にこの未完成感が彼らの魅力なのかもしれない。そして、個人的にはこのボーカルが限りなく普通で、非常に好みである。派手さはないけど、長い間大事に見守っていきたい才能だなと思う。

本作の後に彼らが歌うラブソングはどんなものになるだろう?ゆっくりと期待しながら待ってみようと思う。



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