演藝(ゲイという字は芸でなく藝でないと締まらない感じをわたしは抱く)通の友人に誘われて、先週の土曜日、銀座能楽堂で浪曲を聴いた。
銀座sixの地下3階。
浪曲師は、玉川奈々福さん。
上智大学を出て、古典藝能の本の出版に携わっているうちに自らもプロに転向したという方。満席、ちなみに女性である。浪曲界には真打制度がないそうで、現在の女性に向いているジャンルだ。
知ったような顔して書いているが、人生初浪曲である。
立って語り、歌う(唸る)藝であることを知らなかった。
だから、パントマイムのような動きも重要なのである。
ニ席聴いたが、ニ席めは歌舞伎の演目である「研辰(とぎたつ)の討たれ」だった。
原案・脚色は野田秀樹さん。
戦前、エノケンさんも浅草の舞台で掛けている。
仇討ちの話だが、軽演劇的で仇討ちする側とされる側の追っかけが骨子の妙であるから、動きが大事である。
奈々福さんのその動きが冴えていて、映画でいうカット割が正確だから画が見えてくる。
だから奈々福さんのバックに、エノケンさんや勘三郎さんのすがたがオーバーラップしてくるのである。
勘三郎さんは、新装した歌舞伎座で「研辰の討たれ」を演じたという。
戸田恵子さんはその勘三郎さんを観ており、歌舞伎座といえば勘三郎さん、ということだ。
本当にエンターテインメントが好きなひとはナマでなんでも観る。
そうして自分でもいろいろのことにトライする。
戸田恵子さんは先日カーネギーホールで公演を行なったが、その直前は、NGK(なんばグランド花月)の舞台にも立っている。
およそ四半世紀まえ、柄本明さんが、こんなことを言っていた。
「勘三郎さんや直美ちゃん(藤山直美さん)に比べたらぼくなんて素人ですよ。だってふたりとも、子役時代に(全盛期の)クレージー・キャッツの前座務めているんですから」
勘三郎さん、戸田さん、藤山さんの三人は昭和30年代前半生まれで、三人とも子どものころから藝能活動を開始していることが共通点である。
不愉快な時事だが、上智大学を出た女性が浪曲師として成功を収めることは、20世紀には考えられもしなかったことだ。そういう点では良い世の中になってきたとおもう。
だれも指摘しないが、朝ドラで伊勢志摩さんが演じた女性代議士のモデルは市川房枝さんだろう。市川さんは戦時中、女性解放運動が大政翼賛会に取り込まれ、戦後すぐはGHQから公職追放を受けた苦い経験がある。売春防止法の成立に尽力した。
ただ世の中が逼塞してくると肉体を売らなければいけないひとたちが出てくる歴史はなかなか改まらないようである。
玉川奈々福さんの浪曲は、昔ながらの単純な勧善懲悪ではなく、考証も簡にして要を得ていた。
昔の侠客の両義性に触れている視点も新しく、こうしたことどもは「新宿野戦病院」の世界とも合同しているのだ。
♪ ちょうど時間となりましたか…カー、こりゃ癪だった❗️