すぐれた舞台人の核心は毒と愛嬌ー中村勘三郎さんの悪態藝 | あずき年代記

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24年まえ、新橋演舞場で観た芝居は、「浅草パラダイス」。


演出・久世光彦さんだった。


出演は掛け値なしのオールスター。


中村勘三郎・藤山直美・柄本明・渡辺えり・中村獅童・寺島しのぶ・でんでんの諸氏。


豪勢だった。

久世さんの演出だから、壮大にセットを毀す。

この破壊担当は、もっぱら柄本明さんが請け負っていた。


セット自体の組み替えも多く、それをも客席に見せながら、元スタンダップコミック(ひとり漫談)のでんでんさんが、トークで繋ぐ。でんでんさんは、渥美清さんの弟子になろうとおもっていたひとだ。


勘三郎さんが出てきて笑わせることもあった。


ただ笑わせるだけでなく、毒がある。


新橋演舞場で旧歌舞伎座の悪口を言ったりするのがそうだが、わたしが驚いたのは前日観にきた海部元首相がいかに傲岸不遜で横柄だったかという悪態藝である。


海部元首相は勘三郎さんの後援会会長だった。

しかし、タニマチの親方気取りであまり威張っていると、復讐される。藝界のひとを苦しめると七代祟るということばを海部さんは知らなかったのだろう。


厭味に響かなかったのは勘三郎さんに愛嬌があるからだ。落語家・歌舞伎役者・歌手・俳優ー舞台で咲き誇るひとたちはみな毒と愛嬌を兼ね備えている。


伊東四朗さんだってそうである。


伊東四朗&三宅裕司がコンビで舞台に立った最初は1997年夏、西新宿のビルの地下で行なったコントライヴである。


おなじみの突然歌いだすコントで、伊東四朗さんは美空ひばりさんの顔と上半身の動きを誇張して演じていた。ただし長くはやらない。


というか、すばやく三宅さんがツッコむから切り上げ方が鮮やかなのである。


NHKのドラマは、戦後の未解決事件を繰り返す傾向があって、たぶん80年代にも下山事件をドラマ化している。


伊東さんの役は下山総裁を轢いてしまう列車の運転手役。


一晩みっちり取調べを受けて憔悴、帰宅後、げっそりした顔で生の胡瓜を一本齧りながら茶碗酒を呑むすがたに、食べものが喉も通らない心的外傷が、なまなましく体現されていた。


「あのころのまま行ってたら日本のお父さんの代表みたいになってたアタシを喜劇に取り戻してくれた恩人です」


と呼ぶのが三宅裕司さんなのである。


実力・愛嬌・毒のみならず縁も大切なわけだ。


そしてそれは一般ピープルのわれわれにも適用できることではないか?


以上、伊東四朗3部作のブログでございました。