タイガー・ジート・シン氏、日本国から叙勲。
明るいニュースだ。
猪木vsシンのファイトには当方も燃えた。
高校生になったとおもったらオイルショックで高度成長終焉。
思春期でただでさえ暗いのに世相も暗澹、鬱屈して血が騒ぐ夜、猪木さんとシンさんの死闘は憂さ晴らしに持って来いだった。
ベビーブーマーだと高倉健さんの殴りこみ任侠映画に相当するものが、われわれの場合、猪木対シンだったとおもう。
アントニオ猪木・倍賞美津子夫妻を伊勢丹で襲撃したシン氏の兇行はガチンコと映って世間を騒がせた。
いまおもえば60年代後半に寺山修司さんの劇団が行っていた街頭ハプニング演劇の模倣であったろう。
が、意外なひとまで猪木vsシンの抗争に入れ込んでいた。
だれでしょう?
狐狸庵先生こと遠藤周作さん。
北杜夫さんとの対談で、北さんが、
「遠藤さんはテレビがお好きですけど、さいきんはなにをご覧になってらっしゃいますか?」
と水を向けると、遠藤さんは前のめり気味に、
「猪木対シンだよ。ありゃキミ本気だよ。本気じゃなきゃシンが猪木夫妻を伊勢丹で襲うもんか」
と即答、北さんはニヤニヤして取り合わないから、ああこりゃパフォーマンスだな、と結論づけた。
終生無神論だった北杜夫さんのほうが遠藤周作さんよりリアリストであったから…
何年かまえ、ネットのインタビュー記事でシン氏の近況をよんだことがある。
海老の養殖ビジネスで大成功、篤志家であるから地元トロントの公立校にシン氏の名を冠した学校がある由。
私立でなく公立というのがリアルガチにすごい。
ビジネス成功の秘訣を訊かれたシン氏は、
「わたしは白人とは仕事をしなかった。ビジネスはアジア人だけに限っていた。白人は信用できないが、アジア人は腹を割って話せばお互い理解できるからだ」
と語り、ま、いくぶんの誇張とリップサービスはあるにしても、昨今の日本の似非ライトにはない汎アジア精神にわたしは感服したのだった。
米国一辺倒ではなく、アジア・スラブ・アラブ諸国も大切にしないと先細りが加速するだけですぜ…
「シンは上手く化けてくれたよ」
と、生前のアントニオ猪木さんは感謝していたということだ。
新日本プロレス最初のヒールにしてスアタだったシン氏への本心開陳発言だったであろう。