皆さんの期待が冷めやらぬうちに、オオゴキブリ Panesthia spadica の紹介です。いくつかの死骸を見つけた後、生きている個体も発見しました。
いくつか落ちていたオオゴキブリの死骸。死因の推測は後述。
オオゴキブリは大型の森林性ゴキブリで、いくつかの県では準絶滅危惧種に指定されています。朽ち木を主食とするため基本的に人家には侵入せず、市街地では見る機会がありません。
実は、衛生害虫/不快害虫とされるゴキブリはゴキブリ全体のごく一部の種のみで、クロゴキブリ、ワモンゴキブリ、チャバネゴキブリなどの屋内性ゴキブリです。
A山の頂上付近、ひっくり返ったオオゴキブリを発見。また死骸かと思ったのだが…。
拾ってみると、なんとまだ生きていた。このゴツゴツした胸部!
かっけぇ~。クロゴキのような分泌油脂も無い。
翅の末端は、群棲時に他個体に齧られてしまうらしい。
横から見ると、如何にもゴキブリ。脚力は強い。
顔もやはりゴキブリフェイス。SFホラー映画『ミミック』シリーズを思い出す(厳密には、本映画に出る「とある虫」はゴキブリではない)。
手乗りゴキブリ。動きは比較的緩慢(カブトムシレベル)である。
クロゴキブリのような悪臭は全く無い。鼻と口の間にくっ付けて嗅いでも無臭だった。
これまた飼育してみたかったのですが、やはり容器を持って行かなかったため断念。甲虫よりは柔らかいので、カバンに直入れでは潰してしまう恐れもあります。遊歩道から外れた茂みに放しておきました。
さて、複数匹のオオゴキブリの死骸を見つけましたし、この生存個体も元気が無く、発見時にはひっくり返って動かなくなっていました。昆虫のバラバラ死体と来ればとりあえず鳥による捕食を疑うのですが、これは違う死因かもしれません。なぜなら、脚や翅ならともかく、食べられやすい腹部が残っているのです。
ゴキブリに見慣れると、腹節の末端だけでもソレと判る。
オオゴキブリの消化管内にはある種の微生物(鞭毛虫や細菌など)が共生しています。彼らはこれらの微生物の働きによって食べた木材のセルロースを分解し、エネルギーを得ています。このようなセルロース分解能力を持つ微生物との共生は、シロアリなど木材を主食とする昆虫ではよく見られます。
因みに、我々ヒトはセルロースを分解できないため、食物繊維としてそのまま排泄されます。
微生物に依存してセルロースを分解するシロアリを『下等シロアリ(lower termite)』、共生微生物無しにセルロースを分解できるシロアリを『高等シロアリ(higher termite)』と呼びます。
下等シロアリではしばしば、高温(恐らく33-35℃以上)で共生微生物が死滅し、シロアリ自身も死んでしまうことが知られています。今回のオオゴキブリたちも、同じ原因で死んだり衰弱したりしていたのかもしれません。生きていた個体も、このままでは厳しいかもしれませんね。
さておき、『動きが遅く、飛ばず、臭くなく、ベタ付かず、人家に入らず、格好良いゴキブリが存在する』。これだけは伝えたい。