パイドパイパー

   三森至樹

 パイドパイパーは日本ではハーメルンの笛吹き男として知られている。中世ヨーロッパの伝説だ。しかしそれは実話に基づいて作り出されたものらしい。
 13世紀の中世ヨーロッパのハーメルンという町に、あるときネズミが大発生した。ネズミは食料を食い荒らすだけではなく、恐ろしいペストという伝染病を媒介するものとして恐れられている。
 困ったハーメルンの市民は、その当時ネズミ退治で有名だったパイドパイパーを呼び寄せた。そして、ネズミ退治がうまくいったら大枚の礼を払うと約束した。
 パイドパイパーは不思議な笛を吹き鳴らした。そのメロディにネズミたちは引き付けられ、続々と彼の後に付いていった。そして笛吹き男に率いられて、ネズミたちは町の外に出ていき、一匹残らずいなくなった。こうしてその町はネズミの災いをまぬかれた。
 しかし、ネズミがいなくなると、市民たちは多額の礼金を払うのが惜しくなり、その市長はいろいろ難癖をつけて、笛吹き男を追い出した。
 笛吹き男は再び町に現われ、またあの不思議な笛を吹き鳴らし始めた。
 すると今度は、町中の子供たちが、男の子も女の子も一人のこらず、その笛のメロディに魅せられ、男の後を付いていった。こうして町には子供たちは一人もいなくなった。笛吹き男はそのようにして、子供の消えたハーメルンの町に残酷な復讐を遂げた、ということだ。

 思うにこの童話は、今の日本のありようを暗示しているようにも思う。
 多くの人が、雄弁で威勢のいい言葉に魅せられ、彼らがどこに連れていかれるのかも知らずに、こぞってその後を付いていくかのように見える。あのハーメルンの子供たちのように。後には、ひどい悲劇が待っているかもしれないのに。

 あの子供たちがその後どうなったかは、何も語られてはいない。
 だから想像するしかないのだが、あの子供たちは、同時代の少年十字軍のような熱狂に駆り立てられ、奴隷として異郷の地へ売られていくことになったかもしれない。その後のことをだれが知ろう。
 あるいは、始皇帝時代、魔術師徐福のもとに少年少女たちが集められ、海の彼方のユートピアに誘われて、大挙船出したように。かれらは熱狂のうちに幻想の旅に出たのだろう。その行く末は言うまでもないことだ。
 (徐福については、日本各地に伝説が残っている。徐福と彼に率いられた子供たちは、日本に漂着して、彼ら独自のコミュニティを作ったというような。それは、義経=ジンギスカン伝説のようなもので、後世の作り話のように思われる。実際は、徐福も子供たちも、その目的地には到着せず、海の藻屑と消えたのだろう)

 とにかく、今のきな臭い日本の風潮を考えていると、自然と、あのパイドパイパーのことが連想されたのだ。