世界は夢魔の様相を呈してきた
三森至樹
今のこの世界のことをよく考えてみると、人々の期待に反して、妙な出来事が多すぎはしないだろうか。予測不可能な出来事が、しかも連続して起こってきている。わたしには、今の世界は悪魔的な力が働いているとしか思えなくなっている。
今は2024年の12月だが、わたしは今年の8月20日から11月8日まで入院していた。アルコール性の肝障害でぶっ倒れていたのだ。
その間にもアメリカでは次の大統領がだれになるかを巡って、激しい選挙戦が争われていた。民主党ではハリス副大統領が立ち、共和党ではトランプ氏が立候補していた。わたしには民主党の政策は今の時代には、いくつかの点では同意できないが、トランプ氏のものよりはるかにましのように思っていた。
まず何よりもトランプ氏は地球温暖化の問題をまるで存在しないかのように、石油産業に有利なように、「掘って掘って掘りまくれ」と言っている。こんなのが実現したら、人類は破滅の道を突き進むことになる。第二に、人種や男女間の差別を無視して、アメリカから非白人の難民を追い出し、女性の中絶の権利を認めず、白人男性中心のアメリカを取り戻そうとしている。「(白人男性の)アメリカを再び偉大に」というのがトランプの決まり文句だった。第三に、世界経済のグローバル化に逆らい、アメリカ第一主義、孤立主義を推し進め、世界がどうなろうと知ったこっちゃない主義のために、世界を混乱と独裁国家の跋扈する世界に陥れるだろうということ。
何よりトランプは言動が下品で、信頼できる人物とは思えないということだった。彼は政治家というより、プロレスの興行師のようで、その興行の世界ではああいう言動も喝采を受けるかもしれない。しかし、それを現実政治に持ち込むというのは、非現実の世界へと現実政治を巻き込ことになる。そして、人々が面白がっているうちに、世界は悲惨な結末にまで持っていかれるかもしない。あたかも80年前にヒトラーのナチズムがやっていたことが、現代の世界に再来するかのようだ。
最もひどい独裁者は、最初の内は道化師のようにふるまって人々の関心をひき、やがてその悪魔的な本性の手の内に人々を引き込む。ヒトラーも最初の内は、道化師のように人々に馬鹿にされていたのではないか。トランプもまだある種無害で、無教養なコメディアンのようにふるまっている。しかしそんな彼は、人々の熱狂を煽り立てるすべを知っている。つまり、彼は典型的なポピュリストであって、教養に満ちたまじめな政治家であるオバマの対極にある。人々はトランプによって熱狂の内にどこに連れていかれるか、誰も分からない。彼は子供たちを誘拐する誘拐者、パイドパイパーなのだ。
つまりトランプだけはアメリカ大統領にしてはいけない、わたしはそんなふうに思っていた。トランプがまた大統領になる?そんな冗談のようなことがしかし現実のものとなってしまった。アメリカの人々は、冷めた現実主義を憎んで、非現実の熱狂の中に飛び込んでしまった。このニュースに接して、わたしはこの世界が非現実的な、悪夢の世界のようになり始めていると感じた。
この観念の世界は、やがて世界全体を悪夢の修羅場に引き込んでしまうかもしれない。そのようにも感じて、夢を見ているような気持ちになった。わたしにはこの世界は夢の世界、というより悪夢の世界のようにも感じられるようになった。この世界は夢とは区別される現実の具体的な世界というよりは、半ば夢が現実の中に侵入してきている、そんなふわふわした世界のようにも感じ始められている。考えれば考えるほど、今のこの世界は夢魔的な性格を帯びてくる。
この世界の姿を、いろいろな関連している出来事を通して表現してみたい。