セミナーは丸一日ルーペ(拡大鏡)を用いて、決められた手順にそってひたすら歯を作っていきます。
実習があるので時間の経過が早く、あっという間に夕方。サーティフィケート(修了証)の授与を受け、帰途につきました。
むね歯科クリニック院長 歯周病専門医の笹生です。
新年度が始まって、既に半月以上が経過しました。
振り返るとブログ更新は実に2ヶ月ぶりになってしまいました。何か特別なことが起こっている訳でもなんでもなく、たまたま間が空いてしまったということなのですが...
実のところ、ある程度書いていたりしました。しかしいろいろ逡巡して途中で何度も書き直しては削除したりしていたのですが、やはり公開することといたしました。
持って回った言い方ですが、そんなに重い話ではありませんよ。
さて、、、クリニックには老若男女いろいろな方が来られます。今回はある一人の方のコメントが発端です。その女性の方は、ご主人が外国の方なので「クルム伊達公子」さんのようにカタカナがお名前の中にありました。ご主人のお仕事の兼ね合いなのか、欧米の在留経験もあるようで、またとても美意識の高い方でもあり、ホワイトニングだとかインプラントを用いた被せものだとか、少しずつですが幅広い内容の処置が必要でしたので、徐々に様々な治療を進めさせていただいたところでした。インプラント治療も終わり、ホワイトニングも終了し、いよいよ最終的な前歯の治療として根の中の再治療からスタートしました。
通常、歯の神経をとったあとは充填剤とよばれる樹脂の詰め物を歯の中に入れこんでいきます。基本的に身体の中は無菌状態であるため、歯の中の治療と言えど無菌状態を維持する必要があります。とはいえ、外界と接触させる訳ですから完全に無菌状態にすることはよほどの設備でないとまず不可能です。ですので、細菌を取り除く消毒薬を用い菌を繁殖させないように、唾液を中心とする汚染物から隔離する必要があります。そのための必須となる方法が「ラバーダム防湿法」と呼ばれる方法で、以下の写真のような器材を用いて、歯にゴムシートをかけて隔離していきます。
※ 参考画像です
ただ、この方法は歯の根の中の治療には必須(いわゆる歯科の学術研究のなかで、世界的にこの手法を用いずに歯の根の中の治療を行うことはあり得ず、一つの絶対的な基準として存在している)なのですが、なかなか日本ではお目にかかりません。理由はいくつかあるのですが、やはり手順が一つ増えることとコスト(手間がかかる割には治療費用や実感できる効果の形で反映されない)でしょう。実際のところこの手技や材料については保険治療の項目として収載されているものの国の認可としての治療費用は認められていないので、この点から見ても、保険診療のもとでラバーダム防湿法を行えば行うだけ赤字になってしまいます。
かくいう私も、勤務医時代にはほとんど行ったことがなく、歯周病専門医を取得しグローバルスタンダードを意識するようになってから徐々に準備を充実させできるだけ使うようにしてきましたが、本格的な使用は歯科用実体顕微鏡を用いるようになってから。ですからここ数年といったところです。今では、よほどのことがない限り使用しますので、その点から振り返ってみると恥ずかしい限りですね。
脱線をしてしまいました。
その後、前歯の治療に移っていこうとする矢先、件の患者様のこのゴムシートを外しての第一声が「日本で始めてやりましたよ、これ!」。
聞けば、日本でもヨーロッパでも歯の治療をしているが、ヨーロッパでは普通にシートをかけていたのに日本ではかけられたことがなかったとのことでした。
うーん、と考えてしまいました。私は治療の成果を確実なものにしようといろいろと行っています。いろんな薬剤やら最新の器材、いいと聞けば新しい手法を導入したりセミナーや書籍、文献等も目を通すようにしています。でも、基本的な、足もとを見落としていたことに気づかないまま進めてきたのではないだろうか、そう感じました。
本質的なこと、もっとベーシックなことこそ大切なのかもしれないと遅まきながら実感した瞬間でした。
日本の保険制度は世界に冠たる立派なものですが、その制度によって彼我の差を埋められず結果的に不利益を被るのが患者様であってはならない、そう思いました。