むね歯科クリニック院長 歯周病専門医の笹生です。むね歯科クリニックはこちら
気をつけば10月ですね。
前回に続き、インプラント学会参加記です。
数年前、この歯磨剤が送られて来ました。
実はインプラントは、チタンという金属で出来ているのですが、そのチタンは歯磨剤に入っている「フッ素」で「腐食」されてしまうのでフッ素入りの歯磨き粉ではインプラントを磨かないようにしましょう、ちなみにこの歯磨剤はフッ素配合ではありません…という案内とともに。
一方、日本で販売されている歯磨剤の90%以上には多かれ少なかれフッ素が入っています。むしろフッ素が入っていない歯磨剤を探す方が大変なので、それを逆手に取った形となったわけです。メーカーとしてはしてやったりといったところでしょうか。
私を含めて、歯科医師という人種の多くは技術屋さんなので、この手の案内に同封されるパンフレットに「XX学会でOO大学教授が発表」とか「腐食後の電子顕微鏡写真」などが載っていたりすると、信じ込んでしまいやすいタチなのです。聞くところによると、このキャンペーンのあとに上記の歯磨剤に限らずフッ素配合でない歯磨剤の売り上げが伸びたそうですが、私も懐疑的ながらそんな歯磨剤を購入し使用した一人でした。
懐疑的というのも、高校時代にチタンというのは表面に強力な酸化皮膜を形成して不動態となる、つまり表面が強力な膜で覆われることで腐食を受けない、「極めて安定な」金属と習っていたので、歯科で使用する歯磨剤程度で腐食するのだろうか...と思っておりましたが、ご多分に漏れず権威ある先生のコメントに負けてしまい、流されるように購入し使用となりました。
今回の学会では、もはやフッ素なし歯磨剤使用が既定路線か...そんな中での「フッ素入り歯磨剤対決」です。インプラントへのフッ素入り歯磨剤の使用は是か非か。是非それぞれ2名計4名のパネリストを招いてのディスカッションです。

私自身インプラント学会へ本格的に参加するようになって5〜6年経ちますが、過去のいずれも類を見ないような、それはそれは聞き応えのある内容でした。座長の先生も、学会事務局として非常にチャレンジングなテーマを選び、お願いをしましたと冒頭に話されていました。それだけに、パネリストの先生方の発表はどれも刮目する内容で、特に前日の懇親会の席上に来られた東京歯科大の眞木教授は口腔衛生学会の理事長として、フッ素入り歯磨剤の推進側として、多くの実験結果や論文から反証をあげられておられましたし、一企業の営利目的のためにフッ素利用のメリットが失われてなるものかという明確なメッセージがありました。
ちなみに、私はフッ素使用について推進する側におります。水道水にフッ素を加えろとまでは言いませんが、日常においても積極的に使用していくべきだと思っていますし、私の主な守備範囲である歯周病に罹られている患者様の多くは歯茎がやせて歯の根元が露出することによって、新たな虫歯リスクを抱えていますので、その対応としても欠かせないと考えています(もちろんそれだけで対処できる訳でもありませんのでいろいろな角度からアプローチしますが)。
さて、話題が前後しましたが、結局のところ結論はどうなのか?
一般的な結論としては、まだ確定した内容が出ていないところですし、いわゆるコンセンサスも出来上がっていない事柄です。学術大会のいち部門で出せる結果でもないのですが私が聞き取って感じた範囲内では、インプラント治療を行った患者様の該当部位だけにフッ素なし歯磨剤を適用するというのは、やはりあまり現実的ではないようです。ざっくりとまとめると、インプラントがあっても一般的なフッ素入り歯磨剤を用いたプロフェッショナルケア(歯科医院で歯科医や歯科衛生士が行うケア)で問題なさそうです。
じゃあ腐食の話はなんだったの?という向きがあるかもしれないので一つだけ、付け加えておきます。
確かに、インプラント表面はフッ素で腐食するようです。しかし歯肉や粘膜に接触しているインプラントの根元部分は通常の砥粒の入った研磨剤程度でも削れており、特段フッ素によってのみ腐食するのではなさそうですし、フッ素で腐食する場合は酸性溶液下中でなければならないので、確かにインプラント周囲炎のリスク因子とみなされることにもなるのですが、一般的に用いられる歯磨剤での使用での腐食は、通常のインプラント治療においては念頭に置く必要はあるにせよ、大きく心配しなくても良さそうです。
今回のインプラント学会は、その他の口演内容やポスター発表内容等をみてもずいぶんと得るものが多かったように思えます。前述の通り、インプラント学会へ本格的に出席するようになってから6年目でようやく、馴染んできたということでしょうか。
10月には歯周病学会があります。歯周病学会でも、このようなチャレンジングで得るものの多いディスカッションを期待したいものです。








