歌舞伎座で松緑らの四千両小判梅葉 | 宗方玲・詩人が語る京都と歌舞伎

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昼の部から居続けの歌舞伎座。 團菊祭五月大歌舞伎は、「四千両小判梅葉」でキリです。

江戸城内の御金蔵から四千両が盗まれた、実際の事件を取り上げた黙阿弥の世話物。

 

憎めないワルが特徴のピカレスクものでなく、とにかく写実に徹しているのが特徴。

これがなぜ、團菊祭? それは、五世から当代までの菊五郎と、二世松緑が演じてきたからです。

 

その主人公は、無宿入墨の富蔵。 四谷見附のお堀端で、おでんと燗酒を商いながら、腹に一物ありそう。

初役の当代松緑によると、悪党でも肚の座った人物とか。 確かに、ただのおでん屋には見えないぞ。

 

そこに、酒を奢られる中間の咲十郎と松悟、こそどろ無宿者の左近と、色々ぞろぞろ出てくる。

これが伏線。 で、浪人で道楽者の藤十郎が登場。 意気がっても弱さを見抜かれる、梅玉の演技が渋い。

 

金が欲しい藤十郎に、富蔵が突然、御金蔵破りを持ちかけるところから、話は急展開。

次の場は、四千両を盗んできたところから。 大胆に端折りながら、見せ場にフォーカスするのが特徴。

 

早く金を使いたい藤十郎に、ほとぼりが冷めるまで金を隠そうとする富蔵。

その度胸に怖気づいて、富蔵に斬りかかる藤十郎。 肚の座った前科者と、小心者の浪人のキャラがくっきり。

 

初役の松緑と、菊五郎と共演してきた梅玉との、息がぴったり。 相方の良さを引き立てるのは、梅玉の技。

 

で、二人が捕まる場が端折られて、雪の中山道を、富蔵が江戸に護送される場。

離縁されたのを承知で、富蔵を追いかけてきたのは、女房おさよと孫娘を伴った義父の六兵衛。

 

富蔵を想う三人、罪が及ばぬようそれを突き放す富蔵。 黙阿弥には珍しいお涙頂戴の場が、長い、長い。

これでもかと感情を込める、梅枝と彌十郎に、段々と共感してきます。 それに配慮する、同心の権十郎が優しい。

 

さて、舞台は唐突に伝馬町の西大牢。 牢名主の歌六、隅の隠居の團蔵などの中に、二番役の富蔵。

ここから、身分や役割が決まっていて、しきたりに従い暮らす、牢内の様子が延々と続く。

 

彦三郎、坂東亀蔵、歌昇、種之助などの囚人たち。 新入りの松江、萬太郎に、ここで再び咲十郎と松悟に左近。

護送中の松緑をなぶった橘太郎がひどい目にあったのはいいけれど、この場はちょっと冗長かも。

 

拍手のタイミングが分らず、引き気味の客席に、松緑と梅玉が刑場に引き出され、幕となりました。

そこに、おおおぅーと響く囚人たちの、送りの声。 頭の整理が追いつかない約2時間が、幕となりました。