東京での仕事の合間、歌舞伎座での4月大歌舞伎の、夜の部に行くことができました。
なんといっても、玉三郎と仁左衛門の憎めない悪が楽しめる、「土手のお六」と「鬼門の喜兵衛」です。
南北作の「於染久松色読販」のスピンアウトで、あの手この手で金をせしめようとする、悪の魅力。
コロナ禍の3年前と、コロナ前の6年前に、同じような座組で拝見したのが、ちょっとした既視感。
大名家で宝刀が盗まれて、その罪で家臣が切腹。 その娘の竹川は奥女中で、息子の久松は丁稚奉公。
竹川に仕えていて、今は莨屋や裁縫を営むお六。 お六と駆け落ちした、元中間の喜兵衛は、実は宝刀泥棒。
と、南北ならではの複雑な人間関係。 それを知っていても、知らなくても、楽しめるのが歌舞伎の良さ。
話は、油屋の番頭が宝刀の折紙を盗んで、店を我が物にしようとするところから。 千次郎のねっとりしたアクが強烈。
田舎者の嫁菜売りは橘太郎、油屋のお堅い主人は彦三郎、気の短い手代久助には玉雪。
嫁菜売りと久助の揉め事を捌くのは、山家屋の錦之助。 これで、役者が揃いました。
ここは、向島のお六の家。 竹川から宝刀を取り戻す百両の工面を言われ、困っている設定。
馬の尻尾の鬘や、ぞろりとした衣装、婀娜な姿でしゃきっと働くのが、見ていて気持ちいい玉三郎。
ふぐ毒で死んだ、油屋の丁稚の早桶が担ぎ込まれたところで、風呂から戻って来た仁左衛門の喜兵衛。
借金の催促を追い払ってから、田螺の山椒和えで一杯(これがおいしそう)。 この鯔背なワルぶり。
悪だくみを思いつき、早桶から死人を引っぱり出して、髷をじょりじょり。 しっかりと、応援したくなる奇妙さ。
次は、玉三郎の見せ場。 丁稚の死骸を油屋に担ぎこんでの、大騒ぎ。 さあ、どうすんのさ。
何だか可愛い婀娜ぶりと、理論的な(?)ゆすり方が頼もしい。 そこに、仁左衛門がさりげなく応援。
ここから正義の大逆転が、南北もの。 錦之助の山家屋がからくりを見破り、なんと生き返る丁稚どん。
どんどん不利になっても、悪びれずドーンと構えている、玉三郎と仁左衛門の細かな仕草は見どころ。
せっかく生き返ったのに、千次郎に裸で店を追い出される、丁稚の松三がいい味を出しています。
で、悪事がばれた玉三郎と仁左衛門が、駕籠を担いでごめんなすって。 花道のやり取りは、国宝級(そのままやん)。