シネマ歌舞伎・刀剣乱舞 | 宗方玲・詩人が語る京都と歌舞伎

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ゲーム「刀剣乱舞 ONLINE」が、新作歌舞伎として上演されたのが、昨年7月の新橋演舞場。

脚本は松岡亮、演出と振付は尾上菊之丞、主演と演出に尾上松也で、大ヒットとなりました。

 

その「刀剣乱舞 月刀剣縁桐」が、早くもシネマ歌舞伎で上演。 で、早速観てきました。

 

名刀の付喪神たる刀剣男士が、2205年から室町時代にタイムワープして、悪と戦う。

その相手は、将軍義輝を暗殺した松永弾正を亡き者とし、歴史を変えようとする、時間遡行軍。

 

と、SFと時代劇をミックスした設定に、二役演じ分けや大立廻り、義太夫や箏曲などの歌舞伎味。

そこに、松也を中心とした若手俳優に、新派から雪之丞と役者が揃って、これは楽しめそうです。

 

刀剣男士は、三日月宗近、小狐丸、同田貫正国、髭切と膝丸の兄弟、小烏丸です。

それぞれ、松也、尾上右近、鷹之資、莟玉と吉太郎、雪之丞の顔ぶれ。

 

とんてんかん、とんてんかんと、「小鍛冶」をアレンジした発端。 それから、刀剣男士たちによる舞の披露。

印象的な序盤ですが、全体を通して一番こころに響いたのが、松永親子の悲劇の場面。

 

刀剣男士の意図を理解し、歴史が変わらないように、父の説得に向かう鷹之資の松永久直。

将軍になぶられても、ぐっと耐えてお家安泰を願う、好男子。 これが何だか、苦しそうな動き。

 

そう、久直は陰腹を斬っていたのです。 ここはシネマ歌舞伎ならでは、鷹之資の表情がよく分かります。

弾正夫婦には、梅玉と歌女之丞。 ベテラン2人が、哀しみをぐっと込めて、息子に応える愛情の深さ。

 

もう一つ。 純朴な若者が将軍になりながら、魔物に操られて無法を尽くす。 その右近の演じ方が上手い。

これも、シネマ歌舞伎のうれしさ。 眉の書き分けと口の開け閉めで、特徴を使い分けるのがよく分かる。

 

クライマックスは、将軍と宗近との一騎打ち。 歴史を変えないように、自ら死を選んだような演技がいい。

一方、同じ右近の小狐丸は、淡々と。 同じく、久直で大熱演の鷹之資も、正国ではかっかし過ぎ。 あれれ。

 

ちょっと忙しすぎて、と二役をネタにしたギャグがすべり気味。 莟玉と吉太朗の兄弟は、それなりでした。

宗近の松也は、終始ポーカーフェース。 将軍の死で少しだけ感情を見せるのも、演出に沿った松也の仕様。

 

将軍を操り歴史を変えようとする魔物には、國矢と蔦之助。 ぶっとんだ演技でなくても、確実です。

荒唐無稽さやスペクタクルはなくても、役者たちの個性と歴史SFのミックスが楽しめた、3時間でした。