壱太郎と右近に新しい曽根崎心中 | 宗方玲・詩人が語る京都と歌舞伎

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大阪松竹座での立春歌舞伎特別公演は、キリの「曽根崎心中」です。

 

徳兵衛には、上方歌舞伎に挑戦しながら、芸域を広げている尾上右近。

鴈治郎に教えてもらいながら、自分らしい役にしたいとか。 なぜか、上方言葉が江戸風に聞こえてしまう。

 

上方歌舞伎の言葉は、特有のイントネーションとリズムがあり、関西人だからできるという訳ではありません。

これが上手いのが幸四郎。 細かな発音は気にせずに、上方の雰囲気を前面に出してくれます。

 

大勢の上方勢に囲まれた、生玉神社境内では、よそ者がなぶられているような演技で、どうなるのかと思いました。

それでも、馴染んでくると、右近の若々しさと弱々しさ、そこにあるお初への一途な愛が、じわじわと浸みてきます。

 

それを引き立たせるのは、以前から二人で演りたいねと話していた、壱太郎。 あまり作らずに、楽しみたいとは余裕。

その壱太郎と右近の距離が近い、近い。 膝を詰め、ギュッと手を握り、間近で見つめ合い、語り合う。

 

西洋劇にはない、もどかしい愛。 いつわりのない、無償の愛。 だからこそ、騙されて滅ぼされる運命。

江戸風の右近が、むしろベタベタでないのがいい。 壱太郎にリードされて、本当にいたような二人に見えてくる。

 

天満屋での、死を確かめあう名場面。 お初の足首と、徳兵衛の喉笛の密着に、どっきりするエロチシズム。

そうして、曽根崎の森。 踊り達者な二人による、たっぷりとした死の舞踊。 親への想いを語る、二人に泣けます。

 

壱太郎によると、新たな曽根崎心中が生まれる意識で演じているとか。 これは、来月の南座が楽しみです。

 

それから、周りの芸達者な役者たちが、芝居を引き立てるのがうれしい。 茶屋女には、扇乃丞と折乃助。

女郎には、フレッシュな吉太朗、千太郎、愛三朗。 今回の吉太朗は、大活躍です。

 

同じく大活躍なのは、荒五郎とかなめのコンビ。 今回は、九平次につき合う、町の衆です。

九平次と言えば、もうこの人。 嫌みのない、ちょいワルが魅力の亀鶴。 貴重な人です。

 

久右衛門には鴈治郎で、梅玉より大仰でも、徳兵衛への愛情たっぷり。 おや、寿治郎は渋く惣兵衛です。

とすると、お玉は誰。 なんと、翫政が抜擢。 ちょこまかと小忙しく、返答がぞんざいですが、これもいいかも。