伊勢音頭での梅玉と時蔵の相性 | 宗方玲・詩人が語る京都と歌舞伎

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国立劇場での、「伊勢音頭恋寝刃」の続きです。

「油屋」では、万次郎とお岸のやりとりから始まります。 色気のある、二人の風情が微笑ましい。

 

ここに、梅玉の貢が登場。 前半と同じく、颯爽とした正義の味方風を、淡々と演じます。

事情を察して、てきぱき捌く、お岸の莟玉がうまい。 ここに意地悪の、仲居の千野。 鴈乃助が、ていねいです。

 

出たっ、千野より10倍は意地悪な(?)、万野。 ローランサンの絵を見ていたら、突然ピカソになったよう。

硬軟織り交ぜた台詞、腰を芯にした独特の身体のくねらせ方、多彩な声色。 複雑なお役に、時蔵が自在。

 

色気と毒気を併せ持つのが、独特の時蔵ワールド。 これが不思議と、相方を食わずに、合うんです。

相方は、しゅっとしてさっぱりした、受けの達人、梅玉。 これはもう、ぴったりでしょう。

 

あの冷静な貢が、万野にいじられて、段々と激昂していく。 それを煽る、時蔵の間合いのいいこと。

まるで、怒りの餅つき。 とうとう万野が切られて、すかっとすると思ったら、何だか物足りない気持ちがします。

 

貢の味方は、すっきりと背筋が伸びた、又五郎の料理人喜助。 舞台が引き締まる、貴重な人です。

悪人は、前半に出た岩次実ハ北六の市蔵と、北六実ハ岩次の秀調。 地味ながら、秀調が堅調。

 

お鹿の出来がいいと、ぐっと芝居が盛り上がります。 これがなんと、人生初の女方との、歌昇です。

基本がまるでないので困ったと言いながら、なかなか個性的なお鹿さん。 可愛げがありますよ。

(会場には、「青江下坂」のモデル、「葵下坂」と折紙が。)

 

お紺が出て、全員が揃った場面が、一番の見せ場。 お紺には、女方として、ますます充実してきた、梅枝です。

暖簾をくぐる前の気配、貢に向き合う気持ちと距離感、愛情を隠した縁切りなど。 この空気感が、いい。

 

梅枝の、団扇の使い方も必見。 仲居たちの団扇のシンクロも、見逃せない。 莟玉のお岸の、位置取りもグー。

 

とうとう、青江下坂に魅入られた貢が、次々と人を殺め始めました。 延々と続く、「奥庭」の殺し場が、残酷。

こりゃ、芳年もびっくり。 ここは難しい場で、妖刀に操られっぱなしでは駄目とは、梅玉。

 

ここに、お紺と喜助が駆けつけ、折紙も取り返し、めでたし、めでたし。 と、急にあっさりした大団円に。

興奮がぷっつり切れて、毎回ここで戸惑うのですが、これもまた良し。 梅玉らしい、整った行儀いい、舞台でした。