トマ・ピケティ『21世紀の資本』@オトナカレッジ 解説:飯田泰之先生 | ながめせしまに@無為

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これ知るを知るとなし、知らざるを知らざるとなす。これ知るなり。




 

解説 飯田泰之先生
1月22日放送 オトナカレッジ

要約
 ① R>G  

  •  R=資本収益率(資産収益率)がどれくらいで増えていくか
  •  G=経済成長率 ≒ 平均所得の伸び・労働者の収入の伸び


歴史のほとんどの時期においてR>Gの関係式となっている。
すなわち資産家が資産を再投資等で運用していくとどんどん財産が増えていく。
  
   Rの伸び率4% 
   Gの伸び率1~2%  ※高度成長期の日本は7%
   ⇓

  R>Gが成立 


この関係式では資産を持っている人が資産を運用することで、労働するより多くの収入を得ることになるため、格差が拡大していくと説明できる。


【議論】
これについては資産は運用リスクがあることから資産収益率が高くなるのは自然ではないかという議論もある。
 ⇒この議論について労働分配率・資本分配率(新しく創造された価値がどれくらいが資産家のものにな   り、また労働者のものになるか)という話をすると
      
      労働分配率へは65%前後で安定
      資本分配率へは1/3で安定

 新しく創造された富(価値の取り分)が労働者:1資産家=2:1の割合で安定して推移していることから、RとGはそんなに変わらないだろうと理解されていた。
しかし、どうもRのほうが大きく、放置しておくと資本の取り分が増加していく。

ここで、これまでGDPなどの統計値が整備された1940~1980年代は資本分配率が、上がっている国が多い(※日本は下がっている)が、これについてこれまで経済学者は長い傾向とは違って特殊な事態が生じた例外的なものであるとし、いずれ是正(R≒G)されるであろうと考えられていた。
      
ピケティはこれについて、もっともっと長い期間のデータを見るとこれまで考えられていた経済学者の考えR≒Gという関係が特殊であると説明した。



②経済成長すると格差が拡大するという考え方

 ⇒ピケティの考え方からすると否定される。
  
  R>G の差が大きければ大きいほど経済格差はスピーディに広がるが
  G(経済成長率)の値が大きければ格差の拡大は鈍化するといえる。
  もしGの数値が大きくなりRの値を上回れば格差は縮小する。
  

従って経済成長すると格差が拡大すると格差が広がるという考え方はピケティの考え方からは否定される。

  ※普通の不況の場合短期的に景気の落ち込みにより格差が縮小したり、 
   また景気がよくなることで格差が拡大することが実際の現象として生じることもある
   ∵労働者の賃金は下がりにくいため

しかし、平成不況のような長期の不況となると賃金は下がり、あるいはリストラ等により首になり収入がなくなるため労働分配率が極端に下がるため、格差は不況で拡大する


③資本収益率が経済成長率を上回る=R>G ⇒格差拡大に影響   
 これをどう解決していくか。

 経済成長をどんどん押し上げていくことでR≒Gに近付け経済格差を縮小する方法も考え方としてはあるが、これは現実的ではないとピケティは説明する。

そこでピケティはこの問題を解決するにあたり再分配政策が重要であると説明する。

具体的には世界全体でわずかでもいいので国際的な課税を行うこと。それにより実態がわかって来ると議論の方向が変わってくるはずと説明する。世界的な規模で資産課税⇒国際的な財産に対する累進課税にまで結び付けるのが望ましい


④ では大金持ちへの税を大幅に強化したら、ガッツリ働いて頑張る気(インセンティブ)がなくなるのではないか?という懸念について


ピケティによれば現在の先進国における資産の格差が生じる原因は相続である。この相続による資産の格差は個人の頑張りや才能であるか? ⇒そうではない


そのため資産に対する累進課税を実施したところで頑張って働く気がなくなったりするようなことはないだろうと説明する。では本当に国際的な資産課税あるいは累進課税なんてことはできるのだろうか?
というところでピケティの『21世紀の資本』は幕を閉じている。