「眠れる女子」
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『○月△日(日)10:08
送信者:相澤千尋
件名:無題
本文:
ゆき!おはよ!
 今日いい天気だね、良かったら買い物でも行かない?私、この前、すごいかわいい服売ってる店見つけちゃったの!絶対ゆき気にいると思うんだ!
 暇になったらいつでもいいから連絡ちょーだい!
 ゆきのためならいつでもかけつけますぜ!(>_<)
 待ってるよ!』

 日曜日。私がタケと一緒に遊園地に行った日。初めてキスをした、日。
 パタン。パタン。
 耳の奥で、音が鳴る。

 『○月□日(土)16:11
 送信者:相澤千尋
 件名:無題
 本文:
 やっほー(^O^)/
 一斉清掃かったるいっす…(;一_一)
 私は体育館のモップがけだった…。広いよ、体育館…。
 今日もゆきんとこの担任にゆきが欠席してる理由きかれたから、昨日と同じように答えといから!

 それでね、ゆき…
 私ゆきが来てないのあまりにも心配になって、今日西野君のところに行って、何か知らないかってきいちゃった…勝手なことしてごめん。
 前に、西野君近所だってことちらっときいたから、少しでも知りたくて…。
 でもそこで、体育祭の後の猪俣先輩とのこと聞いて…。
 私それ知らないのに、体育祭の後にメールで傷つくようなことおくってごめんね。ホントごめん。
 長文失礼! 連絡できるようになったらちょうだいね。』

 土曜日。私は一斉清掃に行っているはずだった。帰りに猪俣先輩とクレープを食べて、公園からの景色を眺めて、高ノ宮遊園地に行く約束して。
 『ゆきが欠席してる』ってどういうこと?
 じゃあ、私は、どこに行ってたって言うの?
 パタン、パタン、パタン。
 また、鳴った。

 『○月○日(金)9:30
 送信者:相澤千尋
 件名:無題
 本文:
 おはよう(^_^)/
 どうしたー? 寝坊かー?
 私、朝ゆきに用事あって、待ってたんだけど来なかったから、ゆきの担任に、ゆきちょっと体調悪いみたいなんで、来れたら来るそうですって伝えといたから、もし遅れて来るんだったら、そこらへんよろしくね(笑)
 ゆき真面目だから、それで担任は了解って言ってたから大丈夫!(^_^)v
 昨日のメール気にしてたりする?もしそうならごめんねm(_ _)m』

 金曜日。私が先輩に告白された日。
 私はきちんと朝に登校したでしょ。そしたら、千尋が教室に入ってきて、タケが私のこと好きだって友達と話してたとか言ってたじゃない。
 誰?
 私にこんな嘘のメールを送ったのは誰?
 もしくは、私がこの数日会っていたのは、誰?
 残りの未開封のメールは、白石静からだった。『もう打ち上げ始めてるよ?』という文面が、最初意味が分からなかったが、体育祭の後に、土曜日に体育祭の打ち上げをする約束をしたことを思い出し、自分がそれに行かなかったことを思い出した。けれど、私の記憶では、今日の掃除の時などに白石静と話したが、そんなこと何1つ言われなかった。
 『昨日のメール』って何?
 千尋のメールの文面に登場した言葉に引っかかりを感じて、昨日のメール、つまり木曜の体育祭の日に来たメールを探したが、その日にメールは来ておらず、金曜日の前に来たメールは、体育祭の前の日の、水曜に来た、千尋からの『体育祭絶対優勝!!』というメールしかなかった。
 木曜以前のメールは、開封されたメールだったし自分で読んだ記憶があった。だから、木曜以降、私の知らないことが起こっているということになっているのだと思った。
 私は携帯電話を投げて、両手で口元を押さえた。
 パタパタパタと、倒れていく音が、段々近くなっていった。
 この状況が、いたずらではないことは、すでに分かっていた。もしこれがいたずらならば、世の中みんなが私をだましにかかっていることになる。しかし、そんな気分だった。さっきまで信じていたものが全て私にあっかんべーでもしているようだった。
 タケ。
 猪俣先輩のことを考えると同時に、携帯電話を再び握って、アドレス帳を調べていた。もしも、恭哉たちの言うことが本当なら、アドレス帳にも猪俣先輩の連絡先が入っていないことになる。
 それは、自分の大切な気持ちの大部分を、賭けることを意味していた。勝てば、もしも私の数日間が変なことになっていたとしても、そんなことはしばしの混乱が落ち着けば、笑い話にできると思った。だが、もし負ければ、もう何も無い。もう全部、倒れていく。
 猪俣、猪俣、猪俣、猪俣。
 確かに交換したはずの連絡先。絶対に入っている連絡先。私は電話帳の「猪俣」という名前を、必死に探した。
 電話帳の五十音順の「い」のページはすでに通り越して、さ行のページに入っていた。なんでよ、なんでよ、と悲痛なつぶやきと一緒に、乱暴にボタンを叩き続けた。
 3周程電話帳を探したが、あるはずの連絡先は、無かった。
全部、無いんだ。私。
 「この柊、恭哉が本当に持ってきたの?」
 私は、恭哉も見ずに訊いた。
 訊いたけれど、それは本当かどうか確かめたいという気持ちは毛頭も無く、ただの確認だった。もうこれ以上知りたくないと思って、心に覆いを被せることにした。分からないことはたくさんあったけれど、嘘でも、残ったものを大切にしたかった。
 「うん」
 「証拠は?自分があげたっていう証拠」
 恭哉はそれを聞いて頭を掻くと、少し小さい声で、「カード」と言った。
 「土曜日の夜に、メッセージカードを入れた柊の花を、ゆきの家のポストに入れた」
 そこまで正確に言われると、もう信じざるを得なかった。
 待っている人は、いる。
 メッセージカードにはそう書いてあった。やっと意味が分かった。学校に来ない私へのメッセージだったわけだ。
 柊の花とか、メッセージカードとか、私の数日間とつながっている点はあったけれど、そんなことは、疑問に思うだけでも疲れるので止めた。
 私は、そっかとだけ答えた。
 それも、現実か。
 これが、現実か。
 「最後に私と会ったのはいつ?」
 「体育祭の、帰り道」
 「クレープ」
 「うん」
 「私、食べなかったよね」
 「うん」
 淡々と、そう言った。
 やっぱり、金曜日からか。
 やっぱり、私たちは、付き合っていなかったのか。
 「帰って」
 「え?」
 「もう分かったから、帰って」
 少しの間恭哉はうつむいていたが、もそもそと立ち上がって、出て行った。

 パタン。

 私の恋は、終わった。
 どうやら、私の何かがおかしくなって、私は何かを勘違いして生活していたことが分かった。
 その何かは分からなかったけれど。
 私の恋は、終わった。
 その実感だけが、部屋に置き去りになった。




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