「眠れる女子」
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 恭哉の顔は、嘘を言っているようではなかった。そして私も、担任を出してまでも、恭哉が嘘をつこうとしているとは思えなかった。
 私が、間違っているの?
 少しずつ、少しずつ、自分に対しての疑念が強くなっていた。今まで自分が考えてきたことが、はがされていくような感覚。
 でも、間違っているとしたら、私の何が間違っているの?
 「嘘つかないでよ。なんでそんなに分かりやすい嘘をつくの?もうちょっとまともに嘘ついたら?」
 言っていることは相変わらず攻撃的だったけれど、口からは、もう言葉が力強く飛び出ることはなく、出た瞬間に、ぽろぽろと落ちて行った。
 「学校は、行ってた。行ってたの。だって、タケと一緒に帰ってたし。帰りに、柊の花もらったし。今日だって、ほら、ね、制服着てるじゃない」
私は布団をはいで、自分が来ている制服を見せた。だから今日も学校行ったって証明できるでしょ、と言いたかったのだが、そんなことはどうとでも言い訳ができると、言ったそばから気付いた。
口調としてはもう、お願いだから信じてと言うような状態だった。
私ばっかりが、一方的に空回りして喋り続ける一方で、恭哉は頭を掻き続けてはいたけれど、それは、目の前で意味の分からないことを言う私に、どうやって自分の伝えることを分かってもらえるかと頭を痛めているようだった。
 「大黒屋に、クレープ食べに行ったんだから。一緒に」
 恭哉は、頭を掻き続ける。
 馬鹿に、しないでよ。何よ。私間違ってないよ。
 恭哉に対しての苛立ちは、まだあった。というよりも、苛立ちを持ち続けることによって、意味の分からない告白に、足元を崩されることを防ごうとしていた。
 段々気持ちが悪くなっていた。鼓動が強いのか、吐き気が強いのか、分からなかった。自分の知らないことが、何か隠されているようで、怖くなった。でも、自分の中にも、はっきりと現実がある。知らないことが滑り込む余地など、無かった。
 焦りが、私の頭を支配した。ちょっと前までそんな物が出てくるなんて考えてもみなかった。
 何か。私が正しいことを証明する何か。
 すがるような目で、自分の正しさを見せてくれる物を探して、部屋中を見回した。
 そうだ、携帯電話。
 そんなことをするのもおかしかったが、携帯電話で千尋に電話して、自分がこの数日に学校に行っていたことを証明してもらおうとした。
 千尋だったら、金曜も、今日も、学校で私と会ってるはずだ。
 金曜は朝学校に行ったら教室にいたし、今日だって、帰り際に私が走っているところを見ているはずだった。
 通学用のバッグから携帯電話を取り出して、電話をかけようとした。が、いつ切ったか、電源が切れていたので、電源を入れた。電源が入るまでの間、体を小刻みに揺らして恭哉のほうからは目を離していたが、頭を掻く姿が視界の中に入っていた。
 そうだった、最初っからこうすれば良かったんじゃない。
 冷や汗をかきながら、ようやく一安心と、震えるため息を出したところだった。
 暗い画面が、明るくなり、電源が入ったことを知らせる画面に切り替わった。
 それを見てすぐさま千尋に電話をかけようとした。しかし、それよりも早く、「メール受信中です」と画面に表示されて、操作ができなくなってしまった。私の携帯電話は、電源を切っている間に来たメールを、電源を入れた瞬間に受信しだす設定にしていた。
 私はいつまでも操作ができないことに我慢できずに、意味もないのに電話帳を開くボタンをカチカチと連打していた。
 もう、なんで電源切ってんのよ。
 全てのメールを受信し終わると、しきりに連打し続ける親指も動きを止めた。受信結果画面の、「新着メール5通」という画面を見たからだ。
 ? どうしてこんなにメールが?
 猪俣先輩からの、私を心配するメールかもしれないと思い、少し表情を明るくしてメールを開き始めたが、メールの送信者の名前を見て、まぶたがくたびれたように落ちた。
 ほとんどは、千尋からのメール。1件だけ、何の用か、白石静からのメールだった。
 千尋に電話する前に、まずそのメールを見ようと思い、受信歴の一番上から開いた。
 そして、それが、私に現実を教えるには十分なものだった。

 『ゆきー! 起きてる? 今日は竹内の宿題が超ヤバかったよー(>_<)マジで死ね、アイツ(笑)
 いつ来ても私はいいと思ってるよ!ゆきの来たいときに学校来ればいいよ!
 でもちょっと淋しいな、ゆきがいないと(T_T)』

 『来たい時に学校来ればいいよ』? 『来たい時に学校来ればいいよ』? どういうこと?
 私は必死に恭哉の顔を見たけれど、恭哉は私の顔を見ないでぽりぽり頭を掻いていた。
 本当なの? 本当に私、学校行ってないの?
 千尋からのそのメールの日付を確かめてみると、「○月×日(月)」と、今日の日付だった。
 じゃあ、私が今日見た千尋は何?
 ぼんやりと、現実を見せられているような気がしたが、何も考えないようにした。パタパタと、遠くの方で何か倒れてくるような音が聞こえた。
 そして、その音はどんどん大きくなった。
 他の未開封メールが送信された日付を見ると、全て今日の日付ではなかった。一番古いもので、金曜日に送られたメールだった。
 金曜日。
 私が学校に行っていないと「されている」のは、金曜日からだった。
 そして、私が猪俣先輩と付き合い始めたのも、金曜日からだった。
 私は恭哉のほうを静かに見た。恭哉は私のほうを静かに見ていた。もう頭は掻いていなかった。
 自分の知らない自分を、みんなが見ていたような気分になった。
 私は無言で、千尋からの未開封メールを開け続けた。



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