--------------------------------------------------------------数年前-------------------------------------------------------------------
それは確か少し前、俺が傭兵部隊を結成する少し前の時だった
俺は稼ぎ口を探して放蕩するだけのただの無頼漢だった頃
第二次ハフマン戦争の戦火未だ止まない209X年
知り合いの傭兵が行方不明になった
普通なら日常茶飯な事なのだが、事態の異常に気がついたのは、それから3ヵ月後、そいつは狂人になって戦場で暴れていた
何か特別な手術があったのは俺でさえ分かる。何か悪い島に首を突っ込んだのだろうと対岸の火事で見ていたが
それからも急な失踪は続いた
眠れない夜が続き、いつ俺も寝首をかかれるかという無限に沸いてくる恐怖、畏怖に駆られていた
そんな日々が続いて1週間。フォートモーナス基地にSOCOMテロ対策特別部隊「バーゲスト」が駐屯しに来た
情報戦、潜入ミッション、機密…
様々な重要任務をこなし、尚且つ軍機密にも口を出せる部隊である
俺は不安が先に立ち、何とかして情報を聞き出そうと思った
SOCOM相手に情報を聞き出すのは用意ではないのは百も承知だったが、自分自身の保身という点は何にも増し、それしか考えられない状態だった
しかしどうしろと言うのだろう…
食堂で頭を抱えていた俺
その時、肩に生暖かい感触がした
ふと後ろを振り返ると、そこには白虎ともよく似た顔立ちだが、髭が濃すぎる
第一印象で髭の印象しか残らないほどだった
若干太い声でその男は言った
「君…ここでは見ない顔だな、観光にでも着たか?」
気の利いたのか利かないのかジョークを飛ばしてくる
根は悪くないと直感が囁く
そうこう考えている内に、男は第二声を発した
「すまんな行き成り。俺はバーゲスト隊長のヘクターだ」
さりげなく自己紹介をした後、俺の表情は複雑に喜怒哀楽の中間を彷徨った
何故かその名前を聞いた事がある
ヘクター・レイノルズ
言わずと知れたバーゲスト隊長。階級は中佐
その身分と地位に見合うような切れ者である
しかし切れ者過ぎて、軍の上層部に煙たがられる存在でもある
ヴァンツァー操縦技術、指揮能力は郡を抜いている上に、女性の心も掴むジェントルメンであった
そのご大層な身分の男は、俺にこう呟いた
「お前さんの悩みはよく分かる」
唐突にこれだ
多少なり頭を抱え込んで悩んでいるのは分かっただろうが、その中身まで知られるような事は一切してなかった
俺は瞬間的にそれの洞察力をこの世のものではないと察した
伊達に黒犬部隊の隊長を勤めているわけではい
そして男は続けてこう自分の首筋の電子機器のようなものを見せてきた
「これに見覚えはあるかね?」屈託もない顔でそれを見せるヘクター
続けて「これはS型デバイス適応手術の跡だ」さらりと言う
「S型…デバイス…」俺の呟きを少しわかったようにヘクターは返す
「そうだな…ゆくゆく戦場でお前がウルフと名のつくWAPを見た、もしくはその名を聞いたら、即座に撤退するかパイロットを確認しろ。知り合いが入るかも知れん」
いきなりそんな説明をされてもまだ若い俺には理解に苦しむのは当然だった
だが大体の事情は把握出来た。つまり俺のような身のあてが無いような若い傭兵を連れ去り、謎の機関に改造されたと言った所
曖昧だがそれしか聞いた情報が無いので仕方が無かった
半ば意識してない方角から声が聞こえた
「良ければ次の作戦についてきてみるか? 何、俺の隊員とか何とかいって誤魔化せば大丈夫だ」
まずその声は飛びつくに値したが、よく考えてみろ
SOCOMのテロ対策部隊の隊長が俺なんかに情報を漏らすわけが無い
怪しさはぬぐえなかったが、今の時点ではその言質に暗いつくしか方法が無かった
無意識のうちに頷いていたのだろう
ヘクターは満足そうな顔で頷き返していた
作戦地はロングリバース島直下の研究施設だった
ここは以前ニルバーナ機関の研究に使われていた忌まわしき場所だが、最近まだその残党が蠢いているという噂があるのは知っている
それで突入するのか…
俺は自機をセットアップし、黒くカラーリングしてバーゲストに偽装、部隊の跡についていった
頑丈なドアをランチャー部隊はものの4分で粉砕した。流SOCOM
黒犬と謗られているのが分かるぐらいの角から角に滑り込む技術
俺の機動マニュアルの中ではバイブルに等しいモノだった
ヘクターが言う
「ブラック4、フォーメーション遅い!」
恐らく俺であろう、操作技術に遅れがあるのは無理も無い話
特殊部隊生え抜きの軍人が無頼の俺なんぞに遅れをとる訳が無かった
必死で動きに食い下がったのは覚えている
それからの数時間は思い出せない
それだけ忌まわしい記憶だったのだろうか
よく分からないが、とにかく俺がその名前を聞いたのはその時だった事が思い出された
それとウルフがどう関連しているかも分からず終い
だがこの双子…戦闘能力をS型デバイスと説明したら道理にかなっているのではないだろうか
その間の千思万考をよそに、自慢げな顔でクルーエルウルフの説明を続ける桜花
「…でね! この刀がすっごい切れるの! ねぇ聞いてる?」流石に疑問に思い始めたかこの朴念仁め
だがその怒りと他諸々を表に出さないで大人の返事をしてやったのは言うまでもない
「んで…それ使えるのか? 性能的に制御出来るのか?」当然の疑問符
「これ柳葉にも同じタイプのWAPを回してあるから私にも出来るでしょ♪」全く不安要素のフォローになってないが、どこからやってくるんだろうその自信
まぁ分からないこともないから良いのだが…
最後に軽く手でサインをし、柳葉機のハンガーに向かった
柳葉機もその風貌やら材質は、桜花の機体とそん色ないように見えた
武装の特徴もそのまんまと言った所
早速本人に聞いてみる。結果が分かっていようとも
「たいちょー! これ見て下さい! かっこいいでしょ♪」
第六感が察した
この話を聞いてはいけない
すぐさま言い訳を電光石火のスピードで考えた
「悪いな、出撃準備だ」至って冷静な顔つきで説明した
こうでもしないと食い下がってくるのは周知の事実だからだ
ありもしない出撃に沿って通路を早足で歩いていた
まだ2機程セットアップを見てないわけだが、あの二人ならそこまで破天荒なセットアップはしないだろうと全力で祈った
考えにふけっているとき、俺の頭上の警報機がけたたましく鳴り響いた
------------------------------------------------共同殲滅作戦---------------------------------------------------------------
約束の時間まで1時間を切った
だが俺の頭痛は直らない。自業自得とはいえ、いつもより数倍の力が加わっていた気がする
頭を抱えながら最終確認をしていた
フィリピンは言わずと知れた亜熱帯地域と湿地帯。移動に関してはかなり面倒くさい地形になっているだろう
だが、一平卒と違うところは、俺達は自由に装備を変化できるところにある
これが傭兵の最大の利点であろう
今回は湿地帯の対策も含めて脚をホバーにしてみた
ホバーは移動の面でも水に浮くという面でも十二分に活躍してくれるレッグだ
しかし反面システムを組み込むため、装甲は薄いの一言
だが相手のレッグとの適性を考えれば、普通の脚で泥濘に足を取られて的になるより数倍危険は少ないだろう
隊員にもホバー脚にするように注意を促した
案外とそういう面ではうちの隊員は案外と素直にセットアップに従ってくれている
麗帝機は大出力ターボBPを取り外して、背中にセンサーEMPを搭載した
湿地帯ではホバーとはいえ機動性の低下は免れない
そのため出来る限りランチャーの必要性と能力を高めるためのセッティングだ
EMPは機体の細部に電子パルスを打ち込み、一時的に機能を麻痺させることが出来る
継続時間は長いほうではないが、戦術的な利用価値は非常に高い
一時的な麻痺でも、その間には無防備にうなるという訳だ
考えるまもなく、穴だらけになるのは確実だろう
炎砲機はいつもの如くハリネズミ装備かと思いきや、今回は湿地帯というコンディションを重々考えた結果なのだろうか、それともホバーによる重力の応酬なのだろうか
いつもより全体的な装備の量は少なめであった
軽く目配せをされた
今日の俺は違う
その表れかどうかは知らないが…
少々の呆れを感じながら桜花機の方向を向いた
その瞬間目を疑い、驚愕した
見たことのない機体だった
人間に近いフォルムに背中に装備された日本刀に模した刀
全身はパーソナルカラーのピンクに染めてあった
「たいちょ~ いいでしょこれ!」まるで好成績のテストでも見せるように自分の機体を自慢したがっている
俺は若干父親になった気分で聞いてやることした
まず手始めに入手経路を聞くことにした
他に聞くことは山ほどあるのだが
口を開こうとした瞬間
桜花は思考がすり抜けでもしたのか、俺の質問を待たずに返答した
「これね! クルーエルウルフっていうんだよ!」
随分と禍々しい名前だ
ウルフと聞いて少し思い当たる節があった
S型デバイス…
数十分過去を回想してみた…
-----------------------------------------オペレーション------------------------------------
とりあえずゲリラと知れたら司令は有無を言わさずに引き渡すように言われるのは確実
そこで俺達は部屋で尋問をすることにした
とんでもない胆力だ
強面含む数名が取り囲んでいても、顔色ひとつ変えようとしない
椅子に座ったその端正な顔立ちからは、余裕すら感じられる笑みを浮かべる
だが動じず俺が先頭を切って口にする
顎からは汗が滴っていた
「まずだ、聞きたいことは山ほどあるんだが、どうも俺が思うに素寒貧にそんな金払えるとは到底思えない」
少し脅迫するつもりだった
「おいおい、俺が素寒貧? 何を冗談おっしゃる」どうやら全然効いてない様子で
徐にホセは懐から小切手を差し出した
俺は半ば期待はしていなかったが、その見縊りは数秒で改めさせられた
小切手の中身、いや記載されていた数字は、0が7つ、100万$である
普段の傭兵家業では絶対に手に入らない金額
まさに目が眩む額である
いや、目がくらむ程度で済んだならマシなのかもしれない
後ろで物音がした
四畳半を少し広くしたぐらいの部屋、物音はすぐに響く
金属音ではなかった。人間の、人間が体を打ち付けたときに生ずるような、鈍い音だった
後ろを振り返るまでも無く、誰がどこを壁にぶつけたのかがよく分かった
音がしてから数秒もたたぬ内に、「ふぇ~」という、気の抜けた大声が聞こえてきた
何と情けない…
溜息をつきながら後ろを振り返った
案の定、尻餅をついていたのは桜花だった
真横で妹が哀れむような目。俺と一緒の目をして見ている
他の隊員も多少気持ちは分かったが、この場面だけ見ていると腰が抜けていると思われても仕方が無い
「ほら姉ちゃん…」優しい妹に介抱されて起き上がる姉
その姿に貫禄は愚かプライドの欠片も感じることが出来なかった
さらに一息付き、ホセとの話を進めた
「お分かりだろうか? もう俺達はそんな金額を見るのは初めてだ 開放はする」義理という暗黙のルールはさすがに守る
すると少し気が楽になったらしく「お、じゃあ話が早い! あんたら何が聞きたい? 人情話以外だったら何でも話してやるよ?」この状況でそのジョークは無いだろ
だが俺は間髪要れずに話をした
「まずお前達の主な進軍ルートと概ねの作戦を聞かせてもらおう」
すぐに返答は帰ってきた
「まぁ俺達の目的は遊撃と補充要員としてが主だ。主力部隊が苦戦しているようなら俺達が後方からランチャー背負って出撃するわけだ。
後、ルートは主に第一師団がバタンガス、第三師団はルソン島に侵攻する予定だよ。」
一閃。考えが思い浮かんだ
「ルソン島は日本軍がお前らのせいにして油田を奪おうって考えがある。どうだ?ルソン島への侵攻なら、俺達と一緒に来る気はないか?」
そう言った
何故か信用していた。無意識のうちに
するとホセは笑みを浮かべた後、こう捨て台詞の如く言った
「それは分からんよ。機会があったら戦場で会おうじゃないか」豪快にそういい残すと、徐に立ち上がり、部屋の扉に手をかけた
その背中を誰かの言葉が止めた
「貴様、次に会ったときは問答無用でブチ抜いてやる」いつもは紳士の風貌と言動を崩さない白虎が、珍しく興奮した様相で男に向かって言った
再度笑うと、男は出て行った
扉が閉まりきった後、桜花が俺に言ってきた
「たいちょ~! お金置いていってくれましたよ!」最早それ以外のことが頭に無いのだろうか
人のことは言えんが…
ふと時計を見た
黒井との約束の時間まで約5時間を切っていた。そろそろ日本軍の揚陸艦がルソンに上陸している頃合だろう
俺達も準備する事にした
示し合わせたように炎砲が言う
「隊長! そろそろセットアップしてきます」
麗帝と柳葉もそれと一緒にハンガーまで足早にかけて行った
待てよ…
この状況、白虎はさっき救護室に行って軽度の怪我用の治療を受けている
今この部屋には桜花と俺だけ
本能が先に語りかけた
「桜花…」口元がおぼつかない。無理に動悸を押さえつけているのが丸分かりだった
「隊長? どうしたんですか?」純真な目をしていた
俺は絶えず俺に向かって刺さる視線と遠距離からの瘴気を受けつつ、再び口を開いた
「何だ、そんな事だったんですね」口を開こうとした瞬間、柔らかい肌の感触が俺の頬に当たった
温もりと若干の水分を含んだ唇だった
俺の気を察していたのだろうか…
「プロの兵士としては失格だな…」心の中で自分に毒づいた
数秒もしないうちに、体温が体を包み、俺もそれに応えた
「だいしゅきですよ! た…いえ、おにいちゃん!」目は未だに純真なままだった
まさかこの前の台詞を盗み聞きしていたとは
だが何はともあれこれ以上の幸せがあるだろうか。まず人間として
だが幸福という物はすぐに悪夢に変わってしまった
素人でも気づく程のおぞましい気配
体の温かみを感じながら背後は凍傷、あるいは壊死しそうだった
言い訳なんて言える訳がない
今度ばかりは潔く踵とセットアップをする事にした