「この瞬間を待っていたぞ……」笑みを浮かべて操縦桿を前に倒し、しゃがみで巨大爪を紙一重で回避した。
それが合図だった。
桜花と柳葉は、前傾姿勢から体勢を戻すその一瞬の隙を突き、両腕を切り落とした。
人間の成せる業ではない……
それと同時に、レイブンが起き上がった。
いや、正確には、飛び起きたと言う方が正しいだろう。
背中から全力でブーストを噴かすと、そのままRの向こう脛に向けて振り下ろした。
両膝は大きな音を立て落ち、崩れた。
誰もがこちらの優勢を否めなかった。
その時。
後方から猛スピードで爆煙をあげてこちらに向けて一直線に向かってきた。
「こいつは……」ふと危機感と焦りに満ちていた俺は、コックピットをレイブンクローで貫いた。
中はもぬけの空、無人コンピューターがうるさい音を立て動いていた……
「しまった……謀られたか……」絶望に浸る俺。
新型機は相変わらず爆煙を轟かせて向かってくる、
そしてついに麗帝機と炎砲機に密接し、至近距離でツィーゲを連射した。
轟音が響き渡り、ヴァリアントの巨体は砂漠に倒れた……
「おい!返事をしろ!」全員が炎砲の最悪の事態を想像した……
またも絶望に浸ったその時。
「まだ……死んじゃぁいない……だが…こいつは危険だ!……」大怪我なのはもう目に見えている。
感傷に浸る間もない。
麗帝機は5分としないうちに片腕を飛ばされ、戦闘不能に陥った。
「速さが今までのクラスじゃない! 逃げろ!」麗帝も言う。
出来る訳無い。
だがこちらは大分傷つき、戦闘できる状態とは言い切れない……
その瞬間だった……
ノイズ交じりの声がコクピットに響く
「そこの傭兵部隊! 助太刀が必要かい?」
大声と共に中年の声が聞こえる。
「誰だ! こっちは戦闘中だぞ! 正気か!?」半分来るっているのは自分が一番分かっていた・
「俺らはOCU第46陸戦中隊 ダル・スタッグスだ!」
隊に戦慄走る
ダル・スタッグス
軍人なら誰でも知っているハフマン戦争の英雄とされた部隊だ。
隊員は10人程いたはずなのだが、俺の目には3機の影しか見えなかった。
いや、それが普通だろう。
ダル・スタッグスは、第二次ハフマン戦役において、多機能衛星ミサイル「フェンリル」を破壊した後、大多数の人間が隊を退いた。
むしろ今隊に残っていること自体が不可解なことなのかもしれない。
あのような悪夢は二度と体験したくないだろう…
おそらくその影は、
ハフマンの鬼とまで言われた伝説的なパイロット
トマス・ノーランド大尉であろう。
後の2機の影の正体は掴めなかった。砂塵で隠れた。
「細かい話は後だ! まずはこのデカ物を真っ二つにしてやる!」
そう啖呵を切って、一直線に3機は突貫した。
トマス機は自らの体を軽々と超える長さのロッドを回転しつつRに叩き付けた
Rに避ける時間は無い。体の中心をロッドは貫通。動きが止まった。
しかし、両手に持った武器を狂ったように乱射してきた。
「無人機の性」と言うべきか…
俺はふと思った、2つの影が無い。
「どうした…当たらないぞ…?」不気味な声が聞こえた。
その瞬間には、100を余裕で超える弾痕がRの全身に開いていた…
あの武器は見たことが無い。どこのメーカーかも、物質も常識からは考えられない強度だ…
通常、SGは一度に20発も発射すればどんな堅牢な銃身でも瞬時に崩壊するだろう。
しかし、瞬間的に100を超える弾丸を叩き込めるSG…見当もつかなかった
「流石ゴールドチタン合金…」白虎が専門家口調でつぶいやいた…
その時、やっと俺にも考えが回ってきた。
頭の中で考えが浮かんだ
「あ…!」顎を小刻みに震わせた
そうだ、こいつらの使っているSGの素材は、フェンリルにも使われた衛星用ゴールドチタン合金だ
俺の考える物質とは、飽くまでも地球上で存在しえる物質の範疇で考えたものである
それを遥かに逸脱した硬度と衝撃に対する柔軟さ。それを最高レベルで兼ね備えた合金で作られたSG
「フェンリルの産物か…」感嘆する俺
「とりあえず仕事は終了だ! 今日はお前さんの所で休憩させてもらおうか!」大尉は表情に疲れ1つ見せずに、うちの艦に向けて飛んでいった。
「待てよ」俺は顔を青ざめ呟いた「傭兵ということは、必然的に報酬が発生する…」
俺は自分の財布と口座が氷河期を迎えていることを知った。
俺の脳内に浮かんだある考え。
それは、まったく新しい可能性を示していた。
「ランパート……」俺は初頭の文字をつぶやき、全員に言った。
「皆、聞いてくれ。」
[はあ~い」この子達の脳内の修正を頼みたい……
「恐らくその化け物は`ランパート`と呼ばれているWAPであろう……」確信がないので、はっきりとは言えなかった。
「それなら聞いたことがあります。 何でもサカタが極秘裏に開発したというそれですか?」うちのクルーの技術班が口々に言った。
今回は、それが最新鋭の武装で出てきた……
皆が頭を抱えていたその時だった。
「司令!未確認編隊が猛スピードで基地に接近中!」
考える暇もなかった。
「全機!先も言ったように、奴は化け物だ!しかし、俺の言ったようにすれば、絶対勝てる。」俺の脳は、これまでに無いほど回っていた。
真夏の焦燥に照らされた砂漠に、WAPが六機。
真紅に彩られたジャウアーG3には、機体と同じ色のスーツを身に纏う女性が乗り込んでいる。
砂漠に見紛う黄土に染まったヴァリアントGには、大柄な男が狼の様な目で前方を睨む。
純白に塗りたぐられたヴァーサには、紳士の風貌を醸し出した精悍な顔立ちの男が座り込んでいる。
薄桃色に染まったシャカール2機には、可憐な顔の少女二人が半ば緊張した面持ちで座り込んでいる。
そして
トワイライトが眩いレイブンには、厳つい顔つきの若者が一人、鋭い目で皆を見ている。
「全機出撃!」甲高く俺は叫ぶと、選ばれた精鋭6機が灼熱の砂漠に駆けていった。
目標となるランパート(作戦中はR)はチャド中央の高台に布陣している。
周辺の砲台と銃砲撃用WAP。それとMG装備のゲリラWAPに囲まれた中にそれはいた。
「周辺の敵を殲滅しつつ、高台の死角へ近寄れ!」命令とほぼ同時に味方機は散開した。
機能の仇を打たんとする桜花機は、砲撃を俊敏に避けつつ、敵機の胸部装甲に一寸のぶれ無く長針を突き刺していく。
いつもとは違った……
狂気さえ感じされる桜花の動きを尻目に、柳葉はバックパックに、いつ付けたのか分からないロッドを数十本差し込んできた。
MGの弾を細身のシャカールは軽々とスルーしていく。
そして、柳葉が高台付近まで迫ったときだった。
徐にロッドを背から引き抜くと、台上の砲撃WAPと砲台に向けて腕を振りかぶった。
そして、超硬スチールの棒は一直線に砲台に向かい、その体を貫いた。
柳葉はその後もロッドを怒涛の勢いで投げ、Rを守っている砲台とWAPを1つ残らず消し去った。
炎砲機は、若干後退し、両肩に搭載されたロケット砲から無数の砲弾をWAP隊に撃ち込んだ。
R以外は所詮烏合の衆。ヴェイパーのみで構成された旧式部隊は数秒経たないうちに消し炭となり、焼け野原と化した。
麗帝機は、その真紅のボディを駆り、敵機のいない無人の野を駆け、真っ先に巨大な影にに急接近。
その刹那、Rは機動を開始し、高台の上から麗帝機を跳び越して砂漠にとび降りた。
レッグの力も尋常ではない。
「なんて出力だ!」俺は改めて圧倒させられた。
「だがこちらにも策がある!」態度を変えて全機に忠告した。
「いいか、よく聞け!これがあの化け物を倒す最終手段だ……」
「了解!」全機が声を合わせる。
「まず散開した6機でRの周辺を囲むぞ!」第一段階の命令を送る。
散開した機体は、綺麗にRの周りをぐるっと一周囲んだ。
Rは瞬時に俺のレイブンにその巨大な爪を振り下ろそうとした。
「この瞬間を待っていたぞ……」笑みを浮かべて操縦桿を全力で前に倒した。
「麗帝! 俺はお前に突撃しろとは言ってない! ついでに死ねとも言ってない!」叫んだ瞬間
「うるさいねぇ……」麗帝は生きていた。
片腕を吹き飛ばされたが、機体は無事のようだ。
砂煙の中から麗帝機が出てきた。勇壮だ。
すぐさまリペアBPを背負った2機が麗帝機の修理に入った。
リペアBPの先端を差し込んで修復に取り掛かる。プログラムを送り込み、修復していく。
数十秒で麗帝機の右アームは回復した。輝きを放つ腕
その時。
機関部を粉砕したはずの敵巨大機が動き出した。
戦艦部分を切り離し、その下に人型のWAPが隠されていた。
「戦艦部分はカモフラージュだったのか!」あまりにあっさりと破壊できたと思っていた俺が馬鹿だった。
何でこんな簡単な偽装が分からなかったのだろう……
通常のWAPの数倍はあろうかその体が噴煙を撒き散らしながら立ち上がった……
黒光りする右腕の爪状のナックル。
左腕の長い銃身を備えたRF、大きく「SAKATA」と彫ってある
「サカタ……だと……!」全員が呆気にとられた
正式名称サカタインダストリィ。
数十年前までWAP、火器を製造していたが、ある問題がもとでイグチに買収された会社だ。
今となっては旧式化したはずだったが、何故かあの火器は最新式に見え、錆一つ無い。
150x式に酷似している胴は、当時の技術を以ってしては絶対的に不可能な材質、超硬スチールで出来ている
有り得ない……
なぜサカタ製が……?
「全機、 注意しろ! 相手は得体の知れないサカタの霊魂だ!」
「サカタだって? 今の時代にサカタがあんな化け物WAP作れるはずが無いだろう!」眉間に皺を寄せて炎砲が言った。
「さかたってなにぃ?」  「なにぃ?」 二人は何処まで脳内が自由なのだろうか……
「その話はいいもういい。 白虎、試しに牽制弾を頼む」
「畏まりました」ライフルを拾い、白虎が牽制に砲弾を発射した
鉄の弾丸が敵機に命中。しかし敵の胴体には穴どころか傷さえ付いていないようだった。
「なにぃ? この弾丸を直撃させたと言うのに、傷一つ付かないだと……」呆然とライフルを下げる白虎
その時、敵機が起動し始めた。
その動きは、他に類を見ない速さで滑るように桜花機に接近し、その爪を振り下ろした!
「お姉ちゃん!」柳葉に止める術は無い
桜花機は、胸先三寸で爪にパイルバンカー爪に突き刺し、止めた。
間一髪
桜花だからこそ止められた。 一般兵卒では串刺しになるか八つ裂になっていただろう。
「仕方ない。前期散開 足を止めて桜花機を救出する!」
しかし、言葉を打ち消し、虚無に帰すよう無数の銃弾が小隊を縦断した。
サカタ製らしきMGから放たれる弾は、まさに現代では考えられないほどの速度で走っている。
「食らったら終わりだ! 作戦変更する。 桜花機の救出後、旗艦に後退するぞ!」
「了解!」皆必死だった。
食らったら死ぬ弾だ。 装甲と言う猶予は無い。
「全弾発射!」 全機体から大型WAPの弾幕をはるかに凌駕した弾数を撃ち出した。
敵機の周囲を取り囲むように移動しながら右腕を集中砲火。
(まだ……なの……?)
桜花機のパイルバンカーも摩擦で磨り減り、長くは持たない。
爪はもう胸部の目と鼻の先だ。 少しでも力を抜いたらその瞬間に……
桜花が絶望をその身に感じたその時
「うちの姉貴から、その薄汚いものを退けろぉ!」
柳葉機が砂塵と共に一直線に滑り込んできた
「りゅうよう……?」桜花は半ば生気を失いかけていた。
数秒も経たないうちに柳葉機は敵機の腕の中心。関節に全力で極太の針を叩き込んだ。
「大丈夫か!?」俺も柳葉機に続いて懐まで接近。
体長よりも長いロッドをMGに向けて振り下ろし、その銃口を叩き潰した。
「お姉ちゃん大丈夫!?」柳葉機が急いで旗艦まで姉を引っ張っていく
無線から泣き声が聞こえた。やはり彼女らは姉妹であり、少女なのだ。
「全機撤退。 期待の識別頼む。」
「了解。識別コード……unknownです」 オペレーターの少女は深刻な声でつぶやくように言った。
片腕をもがれ、銃をつぶされた敵は退いた……
逃走の速度も尋常では無かった。
背中には何も装着していない様子だったのに、切り落とされたその刹那、数秒で消え失せた。
「行くぞ」
前期撤退後、ブリーフィングルームにて総司令官にこれまでの経緯を話した。
「そうか……そんな化け物が……」眉間に皺を寄せた。
無理も無い。
サカタは十数年前、既に潰えた企業なのだから。
しかもそのサカタが、新型のWAPとMG。MLの携えてきたものなのだから尚更である
「恐らくそれはツィーゲ……」と口にしかけた瞬間
「ツィーゲだって!?」白虎がいつもとは違う様子で叫んだ
珍しく紳士の風貌は無い。
ツィーゲ
第1次ハフマン戦争時、サカタが秘密裏に開発した中距離MGである。
普通のMGは、手振れ等で、ある程度の間をおいて撃たなければ命中率は10%以下となる
だが、ツィーゲは違う。弾倉に弾さえ込めればフルオート連射で全く弾がぶれない。
振り回していても、目を瞑っていてもだ。
しかし、その高性能故にサカタが製造方法ごと凍結したいわく付きのMGである。
「ではやはり、右手の爪は……」白虎の口は小刻みに震えている。
「ああ、ドラゴンハンドだ……」司令の顔も深刻そうである。
「なんなんですかぁ?」「そのどらごんはんどって?」これも2人の生前に製造、破棄された物品である
ドラゴンハンド
巨大な龍の爪を模した武器腕である。硬度はWAPの装甲など一撃で抉ってしまうほどである。
さらに、相手に爪先が食い込んだら、爪の先に付いている返し(釣り針のようなもの)が飛び出し、易々とは抜けないように出来ている。
これもまたサカタが開発直後、テスト中に不備を起こし、爆発。プランも消えうせた
「しかし、それもツィーゲもとっくの昔に製造方法さえもわからない筈だが、どうして……?」俺の頭の中で過去の記憶が交錯する。
俺がそう言ったその時
ある閃きが一筋、脳裏を駆け巡った……