果報者 | 仕事のこと、日々の暮らし、趣味のことなど、何気ない日常の中にあるささやかな輝きを忘れないように。

仕事のこと、日々の暮らし、趣味のことなど、何気ない日常の中にあるささやかな輝きを忘れないように。

ピアノ調律師をしています。何気ない日常の中に密かに隠れている輝きを見つけたい、そんなことを考えながらつらつらと書いています。

このピアノの成約がされた帰り道、ふと見上げた駅前の時計台の時計は動いてなかった。

動いてないどころか、針すらなくなっていて、もう何十年も放置されている様子が、かつて血のような液体を滴らせていた遥々福岡から運んできたそのピアノと重なった。



ドイツの弦に交換され、綺麗に塗り直された響板と鉄骨フレーム、それと初めて使った特殊な研磨剤で磨かれた漆黒の大屋根や鍵盤蓋。



新しく生まれ変わったピアノは可愛らしいお子さんのいるご家庭へ売却された。












「手放したピアノの消息を知る事が出来た私は果報者だとつくづく思いました。

高永さんに引き取っていただき本当に良かったです。」

元の持ち主さんへの報告に、ありがたい返信をしてくれた。



納品の場所のすぐ手前の海沿いのトンネルを抜けたとき、

それぞれの、止まってた時間が

ようやく動き出す気配を

僕は、感じていた。