「死ぬまでにサザンの曲を一曲弾きたいんです。」
半年前にピアノを購入してくださった70代の男性。全くの初心者から、この半年ですごく上手になっていた。
「気に入ったピアノが入るまで、ずっと高永さんを待ってると思いますよ。」
一年以上も待っていてくれた中学生の男の子。その間、3台も試弾しにきては、気に入らないと…顔を曇らせていた。
でも、毎回無表情の男の子は、このピアノを試弾したあと
「…弾きやすい…」
と、ひとことだけ。そして、少しはにかんだ笑顔を見せてくれた。
帰り道、新緑の中の木漏れ日と、鳥のさえずりを聴きながら、
あのピアノのたどたどしい音や、少しだけ勇足になりそうな音が、とても愛おしいものだったなと、
誰にも言えない嬉しい気持ちを
噛み締めた。